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臨床精神薬理 2007年11月
批判的にお読みください。

■展望
●向精神薬の創薬動向:ブレークスルーを求めて
樋口輝彦
 現在,海外で開発が始まっている新規向精神薬のうち,抗精神病薬,抗うつ薬を中心に紹介した。これらのうちのいくつかは近い将来,わが国においても開発される可能性があると思われる。これまではもっぱら抗精神病薬の開発はドパミン仮説に基づき行われてきた。統合失調症の原因遺伝子は発見されず,したがってゲノム創薬による根治的治療は期待できないが,仮説検証的薬剤開発においていくつかこれまでと異なる機序の薬が開発されつつある。その中でも注目されるのはドパミン・パーシャルアゴニスト,ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト,glutamate modulators,グリシン関連薬剤等である。一方,抗うつ薬についても,これまでのモノアミン仮説およびその延長上に位置づけられる抗うつ薬の他に,受容体に直接作用する薬剤(セロトニン,ノルアドレナリン受容体アゴニスト,アンタゴニスト)や直接モノアミン系には作用点を持たないNKアンタゴニストやCRFアンタゴニストなどの開発が行われており,関心が集まっている。
Key words :excitatory amino acid, nichotinic acetylcholine agonist, new developed mood stabilizer, TRI(triple reuptake inhibitors), CRH antagonists

■特集 期待される新規作用機序の精神科治療薬
●期待される新規作用機序の抗精神病薬――ドパミン仮説からグルタミン酸仮説へ――
伊豫雅臣
 統合失調症の抗精神病薬による治療は1950年代に始まった。多くの抗精神病薬の共通の作用機序はドパミンD2受容体遮断であることから,統合失調症の病態仮説としてドパミンD2受容体異常とともにドパミンD2受容体遮断を中心とした抗精神病薬の開発が行われてきた。しかしながら,ドパミンD2受容体遮断は陽性症状は改善するものの陰性症状改善効果は少なく,むしろ悪化させる可能性もあった。また錐体外路系副作用などの有害作用も少なからず出現している。このようなことから,第二世代非定型抗精神病薬と呼ばれる新しい抗精神病薬が開発された。これらは副作用は少なく,陰性症状の改善作用も見られる。しかし,統合失調症の中核症状として認知機能障害が注目され,また従来の抗精神病薬は必ずしもすべての統合失調症患者に効果があるわけではない。そこで近年では臨床症状としては認知機能障害を対象とした,または陽性症状,陰性症状,認知機能障害という3つの主要症状を同時に解決するような薬剤の開発が試みられている。前者はニコチンα7受容体作動薬やシグマ―1受容体作動薬である。後者は,統合失調症の仮説として近年注目されているNMDA受容体を介するグルタミン酸神経伝達の機能低下を改善する薬剤であり,主にグリシントランスポーター阻害薬の開発が行われている。
Key words :schizophrenia, cognitive dysfunction, NMDA receptor, α7 nicotinic receptor, glycine transporter

●期待される新規作用機序の抗うつ薬
尾鷲登志美  大坪天平
 現在,我々が使用可能な抗うつ薬のすべては,モノアミン仮説に基づいている。モノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)作用を有する抗うつ薬の開発は,現在も展開中であるが,本稿ではモノアミン作用を直接には有さない抗うつ薬の可能性について概説した。それらの中で現在上市にもっとも近いとされるのは,phosphodiesterase阻害薬,neurokinin受容体アンタゴニスト,CRH受容体1アンタゴニストである。これら以外にも,ニューロペプチド,モノアミン以外の神経伝達物質,視床下部―下垂体―副腎皮質系,免疫系から,抗うつ作用の可能性について報告のある薬剤を取り上げた。
Key words :depression, antidepressant, second messenger, neurogenesis, hippocampus―pituitary―adrenal (HPA) axis

●期待される新規作用機序の不安障害治療薬
辻 敬一郎  田島 治
 新しい不安障害治療薬の候補物質について,その作用機序を中心に解説した。近年,不安のメカニズムに大きく関与していることが確認されたセロトニン(5―HT)受容体のサブタイプ別に特異的に作用する化合物や,不安治療の金字塔であったベンゾジアゼピン(BZ)系抗不安薬から有害事象を取り除き,γ―アミノ酪酸(GABA)受容体の抗不安効果に関与するサブユニットに選択性の高い化合物など,既存薬の5―HT系抗不安薬やBZとは異なる化合物が開発されている。また,cholecystokinin(CCK)やcorticotropine―releasing factor(CRF),neurokinin(NK)などの神経ペプチドに関連した受容体のantagonist,代謝型グルタミン酸(mGlu)受容体のagonist,σ受容体のagonistなども,それぞれの作用機序を介して,抗不安効果を発揮することが知られてきており,新たな不安障害治療の候補物質として開発が行われてきている。多くの化合物は前臨床試験の段階で開発が断念されているが,そのうちのいくつかは臨床試験へと進み,遠からぬ将来,不安障害の薬物治療は大きな変貌を遂げることが予測される。
Key words :anxiety disorders, serotonin, γ―aminobutyric acid, neuroperutides, glutamate

●期待される新規作用機序の気分安定薬
池澤 聰  中込和幸
 気分安定薬の作用機序にはさまざまな仮説があるが,近年,lithiumやvalproateの神経保護作用や神経新生促進作用が注目されている。細胞内のさまざまなシグナル伝達経路を介して神経保護作用が発現することが解明されつつあるが,これらに基づく創薬は,その試みが始められたばかりである。現時点で,気分安定薬として今後期待できる薬剤として,lamotrigine・quetiapine・olanzapine・aripiprazoleなどが挙げられる。双極性障害に対するRCTによれば,lamotrigineは急性うつ病エピソードおよび維持療法,quetiapineは急性躁病エピソードおよび急性うつ病エピソード,olanzapine・aripiprazoleは急性躁病エピソードおよび維持療法に効果があるものと考えられている。将来,病態に基づく創薬が進められ,よりよい症状改善と病状安定に結びつくことが望まれる。
Key words :mood stabilizer, neuroplasticity, neuroprotection, neurogenesis

●期待される新規作用機序の抗認知症薬
杉山恒之  中村悦子  山口 登
 現在までに世界的に抗認知症薬として認可された薬剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるtacrine,donepezil,rivastigmine,galantamineの4種類およびNMDA受容体阻害薬であるmemantineであり,いずれもアルツハイマー病(AD)の症状進行抑制を標的としている。日本においては軽度から中等度ADに対しdonepezilのみが市販されているにすぎない。現在,もっとも有力なアミロイドカスケード仮説に基づきAD発症に至る病態過程に作用する薬剤の開発が進められている。これらは病態過程に直接的に作用するdisease―modification therapy(根本的治療法)であり,臨床的にADが発症するできるだけ早期の段階もしくは予防的治療が有効であると考えられる。今後,アミロイドイメージングや脳機能画像ならびに髄液中バイオマーカーなどのサロゲート(代替)マーカーの確立と,根本治療薬開発のための基礎的研究に加え,臨床試験の進展が期待される。
Key words :anti―dementia drug, acetylcholineesterase inhibitor, γ―secretase inhibitor, β―secretase inhibitor, amyloid vaccine

●期待される新規作用機序の抗てんかん薬
岡田元宏  中川雅紀
 てんかんの病態解明研究も,分子生物学的な研究の進展に伴い,pathophysiologyを標的とした研究から,pathogenesisを標的とした研究へシフト可能な状況まで成熟している。既存の抗てんかん薬(AED)に加え,開発が進んできている第二世代AEDも,抗けいれん作用を指標としたスクリーニングによる選別の末に開発が進められてきている。今後,我々が期待すべきてんかん治療薬は,抗けいれん薬ではなく,てんかん病態を標的とした,てんかん病態を改善・補正できる真の抗てんかん薬ではないだろうか。
Key words :epileptogenesis, ictogenesis, pathogenesis, pathophysiology, epilepsy, anticonvulsant, antiepileptic drug

●期待される新規作用機序の睡眠障害治療薬
内山 真
 近年,日本において新規作用機序の睡眠薬,精神刺激薬などの臨床試験が活発に行われるようになった。この背景には,疫学的研究により不眠症や過眠症などの睡眠障害について有病率が明らかになり治療薬開発が改めて意識されるようになったこと,睡眠医学の発展により睡眠障害の分子生物学的メカニズムが徐々に明らかになり新薬開発を促進したこと,睡眠障害治療薬を客観的基準で評価する方法論が確立されたことなどが関係していると考えられる。本稿では,開発が活発に行われている不眠症治療に用いられる薬剤として,新たなベンゾジアゼピン受容体作動薬,メラトニン受容体作動薬を取り上げ解説し,過眠症治療に用いられる薬剤として,新しい精神刺激薬であるmodafinilおよびヒスタミンH3受容体拮抗薬について紹介し,これらの作用機序と今後の開発について述べた。
Key words :insomnia, hypnotics, benzodiazepine, melatonin, psychostimulant

●<原著論文>ドパミンD2受容体パーシャルアゴニストによる統合失調症急性期治療の有用性――急性期症例に対するaripiprazoleの使用経験に基づく考察――
武内克也  酒井明夫  大塚耕太郎  岩渕 修  山家健仁  磯野寿育  福本健太郎  三條克巳  遠藤 仁  岩戸清香  工藤 薫  田鎖愛里  中村 光  高橋千鶴子
 本論では,aripiprazole急性期治療が有効であった統合失調症例について,急性期から維持期までの治療を提示し,その縦断的有用性を検討した。本例では,他剤による治療で,眠気を原因にアドヒアランスが低下していたため,興奮に対しては補助薬としてlorazepamを併用し,aripiprazoleによる治療を行った。これはアドヒアランスを向上させ,治療者による言語的介入の効果を高めることに有効であった。急性期から言語的介入と双方向のコミュニケーションを継続できたことは,興奮・焦燥感の治療開始早期からの軽減や,治療必要性の理解につながった可能性が高い。有害事象が少なく,忍容性に優れたaripiprazoleを急性期治療から使用することは,その後の維持治療を見据えた治療という点で大きな利益となると考えられた。
Key words :aripiprazole, dopamine D2 receptor partial agonist, acute phase of schizophrenia, dopamine system stabilizer

■原著論文
●統合失調症に対するblonanserinの臨床評価――Haloperidolを対照とした二重盲検法による検証的試験――
村崎光邦
 Blonanserin(BNS)の統合失調症に対する有効性及び安全性を,haloperidol(HPD)を対照薬とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験で検討した。有効性解析対象238例での最終全般改善度改善率(「著明改善」+「中等度改善」の割合)は,BNS群が61.2%,HPD群が51.3%であり,ハンディキャップ方式(=10%)でBNSのHPDに対する非劣性が検証された(p=0.001)。PANSS及びBPRSの合計スコアは両群ともに試験薬投与前より減少し,PANSS陰性尺度及びBPRS欲動性低下クラスターではBNSがHPDより高い改善効果を示した(それぞれp=0.025,p=0.022)。有害事象及び副作用発現割合は両群でほぼ同じであったが,錐体外路系の有害事象及び副作用発現割合はHPDよりBNSが低かった(p<0.001)。また,HPDよりBNSの発現割合が低かった副作用(p<0.05)は,錐体外路系症状の振戦,アカシジア,運動能遅延,精神神経系症状の過度鎮静であり,HPDより発現割合の高い副作用はなかった。以上の結果から,BNSは陰性症状を含む広範な精神症状を改善するとともに,既存の抗精神病薬で問題となる副作用の軽減が期待できる有用な統合失調症治療薬であると考えられた。
Key words :blonanserin, haloperidol, serotonin―dopamine antagonist, schizophrenia,randomized controlled trial

■症例報告
●Aripiprazoleの切り替え例(3例)への使用経験――新世代抗精神病薬を「新世代」として使うために――
大下隆司  馬場美穂  伊藤 学  奥井賢一郎  瀬尾たまお  横山香菜子  江原美智子  長谷川大輔  榎本あおい  石郷岡純
 2006年に登場したaripiprazoleは,これまでの抗精神病薬とは異なる薬理作用を有し,鎮静作用を利用せずにドパミン神経系を安定化させて治療効果をもたらす薬剤である。今回,従来薬からaripiprazoleに切り替えることにより,陽性・陰性症状と認知機能が改善し,一段質の高い治療結果を得ることができた3例を紹介する。いずれも前薬を減量せずにaripiprazoleを上乗せしてから増量し,その後に前薬を徐々に減量していく切り替え方法で成功している。切り替え途中に不穏や焦燥感,不眠など出現したが,適切に補助薬を使うことで対処できた。Aripiprazoleの切り替えを成功へと導くには,いくつか気をつけるべきポイントがあり,その原因とともにそれを考察する。Aripiprazoleは,その新しい薬理作用とともに治療のアプローチがこれまでと違うことから,病因・自己治癒力モデルに当てはめて,その使いこなしに新しい方法論が必要な薬剤であると考えられた。
Key words :aripiprazole, schizophrenia, switching, etiology―self―healing model, dopamine system stabilizer, new generation antipsychotics

■総説
●抗精神病薬開発におけるclozapine研究の意義
出村信隆
 Chlorpromazineにより導入された統合失調症に対する薬物療法は,精神医学史上特筆すべき出来事であった。Chlorpromazineは,予想外にも三環系抗うつ薬のimipramineの発見につながり,さらにimipramine様抗うつ薬の研究過程からclozapineが見出された。その後,D2受容体遮断作用を基盤とするhaloperidolが創出され,D2受容体単一薬理主義は確立した。一方,clozapineは,錐体外路系症候(EPS)が軽微もしくは欠落しながら,陽性症状と陰性症状のいずれにも奏効するという卓越した臨床効果を示した。その特性が“非定型”の定義となり,新たな開発思想の潮流となった。その後risperidoneに代表されるセロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA),様々な受容体との相互作用に焦点を当てたolanzapine,及びドパミンパーシャルアゴニストのaripiprazoleが創出された。これらの抗精神病薬をD2受容体親和性からみると,低親和性群と高親和性群に分類される。行動薬理学的な薬効モデルと副作用モデルから得られたED50値を薬物ごとに集積し,それらをD2受容体親和性(Ki値)に対しプロットすると,ED50とKiが相関する薬物群と相関しない薬物群に分類される。Clozapineは唯一,D2受容体親和性が低く,ED50とKiが相関しない薬物である。Clozapineは症状改善とEPSリスクの低減を両立し,定型ばかりでなく他の新世代に反応しない統合失調症にも奏効する。Clozapineのこのような特性から“D2受容体を介さない作用機序”が考えられ,その候補として,GlycineB/NMDA受容体活性化作用,アセチルコリン放出作用,代謝物のM1受容体アゴニスト作用などが挙げられる。Clozapineの作用機序は現在においても不明ながら,それゆえにその研究の意義は失われていない。
Key words :clozapine, atypicality, non‐D2 receptor mechanism, antipsychotics

■資料
●合理的な抗うつ薬選択を目指して――軽症・中等症うつ病に対する治療アルゴリズムの出発点――
稲田泰之
 国内における大うつ病の治療アルゴリズムでは第一選択薬として選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)が推奨されているが,どの薬剤をファースト・チョイスとするかは明確にされず,それぞれの臨床家の判断にゆだねられている。一方で,多くの海外における比較試験からは抗うつ薬の効果はどの薬剤でもほぼ同じであるとされているものの,有害事象のプロファイル,薬物動態のプロファイルや薬物相互作用は,薬剤ごとに異なっており,それぞれの薬剤の特徴を念頭において,患者の状況にあわせて処方することは,患者にとって望ましいだけでなく,リスク管理上医療機関にもメリットがあるものと思われる。当クリニックでは,どの薬剤をファースト・チョイスとするか抗うつ薬選択チェックリストを使用しているので,そのリストを紹介する。
Key words :sertraline, paroxetine, fluvoxamine, milnacipran, check―list




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臨床精神薬理 2007年10月
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■展望
●うつ病薬物療法の変遷と今後の展開
野村総一郎
 古代からうつ病の病態は体質論的に考えられ,瀉下療法,薬草,麻薬などの身体次元での治療が行われ続けてきた。現代に繋がる薬物療法は20世紀初頭の合成化学工業の進歩という基盤があり,1950年代に登場した三環系抗うつ薬,MAO阻害薬をもって本格的に始まる。これら薬物の神経化学的作用の研究に基づくモノアミン仮説には非常に説得力があり,多くの抗うつ薬が生まれる土壌を提供したが,逆にそれが強力過ぎて,抗うつ薬開発を袋小路に追い込んだ面もある。モノアミン仮説による究極の薬物がSSRIであるが,現在はそれとは異なる発想の薬物も求められている。今後のより本質的な方向性は,モノアミン系に注目した気分感情の亢進の他に,たとえばストレスコーピングや神経細胞新生の促進,神経細胞死を抑制する薬物などに注目することではないかと思われる。
Key words :mood disorders, melancholia, antidepressants, SSRI, monoamine hypothesis

■特集 うつ病薬物療法のすべて
●わが国のうつ病薬物療法アルゴリズムの特徴と問題点
塩江邦彦
 JPAPによる改訂版うつ病アルゴリズム作成段階の特徴は,EBMとコンセンサスの折衷型という点である。JPAPアルゴリズム作成参加者はすべて精神科医であり,改訂版において厚生労働省の公的助成を受けたのは,アルゴリズムの推奨に際してのバイアスが生じにくい利点となった。内容についての問題としては,異なった質のエビデンスの統合についての明確な方法に関して記載がないこと,メタアナリシスの手法を用いていないこと,アルゴリズムの推奨の作成にあたって他の独立したグループによるレビューは受けていないことなどから推奨の再現性について疑問が残ることを指摘した。また,アルゴリズムの妥当性の検証がなされていないこと,将来のアルゴリズムの改訂計画が公表されていないこと,アルゴリズムを実際に普及させる方法について言及していないことなど,今後解決していくべき重要な問題が存在することを述べた。
Key words :treatment guideline, mood disorder, antidepressants, International Psychopharmacology Algorithm Project (IPAP)

●SSRIの実績と今後―難治例への対策
越野好文
 うつ病治療において,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,臨床効果は三環系抗うつ薬を上回るものではなく,重症例など場合によっては多少劣ることがエビデンスによって示されている。しかし優れた副作用プロフィールから,急性期治療において十分量の服薬が可能であり,また過量服用に際しての高い安全性などから,長期服用にも適していることが理解され,多くのうつ病の治療ガイドラインや薬物療法アルゴリズムで第1選択薬の位置を占めている。問題はSSRIに抵抗性のうつ病が少なからず存在することであり,その場合の治療戦略はまだ確立されていない。諸外国ではセロトニン以外の受容体に関連した抗うつ薬も使用されており,SSRI抵抗性のうつ病に対して,これら新しい抗うつ薬による併用療法が進歩しつつある。日本では諸外国に比べ,SSRIの時代が始まったのが遅く,しかも認可されているSSRIや新しい抗うつ薬の種類も少ないのが現状である。
Key words :augmentation therapy, combination therapy, SSRI, treatment resistant depression

●SNRIの実績と今後――難治例への対策(milnacipranを中心として)――
樋口 久  山口 登
 Serotonin and noradrenaline reuptake inhibitor(SNRI)のうつ病患者に対する臨床効果と難治症例に対する有用性について解説した。Venlafaxineについては,難治症例に対して有効とする報告がいくつかあるが,研究は不十分といえる。STAR*D(The Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)Study Teamによる大規模な研究により,selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)非寛解者に対して,SNRIを含む他の抗うつ薬への切り替え,他剤との併用は有効な治療方法であり,寛解率を高めることが示された。単剤で効果不十分なうつ病患者に対しては,2剤目の抗うつ薬の併用もよくみられる。Paroxetineによる効果不十分例に対して,milnacipranを併用し,著効を示した症例を呈示した。
Key words :SNRI, refractory depression, milnacipran, venlafaxine

●三環系・四環系抗うつ薬の現状と役割――新規抗うつ薬は“うつ”を治したか?――
山口 聡  山本 裕
 新規抗うつ薬(SSRIまたはSNRI)といわゆる従来型の抗うつ薬の有用性,有効性につき論じてみた。現在のうつ病治療アルゴリズムに則った新規抗うつ薬を中心とした薬物治療は真にうつ病治療に役立っているのだろうか。SSRIやSNRIに拘るあまり三環系・四環系の抗うつ薬を過小評価しているのではないだろうか。抗うつ薬をすべて同一線上にとらえて,症状を確実に把握してそれに合う薬を使用するという現実的な薬物治療を考えるべきである。この観点から再度,抗うつ薬治療を見直し,若干の考察を加えて論じた。
Key words :algorithm, SSRI・SNRI, operational diagnostic criteria, side effect, tricyclic & tetracyclic antidepressants

●Sulpirideはどう効き,どう使われているか?
前田久雄  恵紙英昭  富田 克  冨松健太郎
 Sulpiride(SLP)は世界的には例外とも言えるが,わが国で頻用されている薬剤である。しかし,近年のSSRIやSNRIなどの導入により,わが国でも,その使用頻度の低下が示唆され,うつ病の治療アルゴリズムからも消えつつある。そこで,SLPの抗うつ作用に関する文献を概観するとともに,わが国におけるSLPの使用実態を探ることを試みた。久留米大学精神神経科外来で初めて抗うつ薬を処方されたうつ病・うつ状態(器質性のものを除く)を対象とした調査では,50〜200mgの少量のSLPが処方された率は33%であり,その有効率はSLP単独で45%,少量のSSRIやSNRIとの併用も併せると79%に及んだ。その全例が,軽症・中等症うつ病エピソードや適応障害であった。入院患者での使用は少数であった。このような外来症例では,従来からSLPの有効性が広く知られていたが,乳汁分泌・月経障害,肥満,錐体外路症状などの有害作用に留意すれば現在でも有用性の高い薬剤であると考えられた。
Key words :sulpiride, selective D2/D3 antagonist, depression

●新規抗うつ薬開発の現状と動向
村崎光邦
 受診するうつ病患者の急増と,従来の抗うつ薬では十分に対応しきれていない現状から,新しい抗うつ薬の開発は急ピッチで進んでいる。わが国ではSNRIのduloxetineとvenlafaxine,NaSSAのmirtazapine,SSRIのescitalopram,NDRIのbupropionの5剤にとどまっているが,海外ではおびただしい抗うつ薬の候補が名乗りをあげ,着々と歩を進めている。とくに,新規抗うつ薬への目は神経ペプチドから成る神経伝達物質へと注がれており,CRF1受容体拮抗薬,VasopressinのV1b受容体拮抗薬あるいはtachykinin familyの各受容体拮抗薬など,視床下部―下垂体―副腎系(HPA軸)の情動性ストレス反応を調整する薬物の開発が急である。また,triple reuptake inhibitorやβ3―adrenoceptor作動薬も開発が進み,さらにうつ病glutamate仮説の台頭から,それに関わる抗うつ薬が今後,登場しようとしている。今,ほかにも,神経ペプチド関連の新規抗うつ薬の非臨床試験も活発に行われており,抗うつ薬の開発から目が離せないのである。
Key words :new antidepressants, SSRI, SNRI, NaSSA, NDRI, SNDRI, neuropeptide

●<原著論文>うつ病自傷自殺未遂例に対する薬物療法――身体重症度による治療内容の比較――
武内克也  酒井明夫  大塚耕太郎  岩渕 修  山家健仁  磯野寿育  福本健太郎  三條克巳  遠藤 仁  岩戸清香  工藤 薫  田鎖愛里  中村 光  高橋千鶴子
 うつ病は自殺既遂,自殺未遂のリスクファクターであり,うつ病における自傷行為から重篤な外傷を負う事例も多い。うつ病の自殺企図,自傷行為ともに手段はさまざまであり,その治療では,精神的対応と身体面への対応が必要とされる。本論ではうつ病自傷自殺未遂例を身体重症度から精神科入院群と救急センター入院群に分け,それらに対する治療手順を比較することによって対処方法を検討した。2入院群とも治療初期から精神科医が介入しており,身体機能と精神症状を考慮して精神科治療薬の投与時期が決定されていた。治療薬としては主としてparoxetineとmilnacipranが選択され,身体症状軽症例にはparoxetineが投与されることが多く,重症例に対してはmilnacipranが投与されていた。企図手段としては大量服薬が多数を占めており,安全な対応を確立することと薬剤安全性を検討することが必要であると考えられた。
Key words :attempted suicide,self―mutilation,depression,somatic severity

■原著論文
●てんかん部分発作に対するgabapentinの長期投与試験――多施設共同非盲検試験――
山内俊雄  兼子 直  八木和一  荒川明雄
 Gabapentinの国内第III相試験において忍容性の良好であった部分発作を有するてんかん患者185例を対象に,他の抗てんかん薬との併用療法下におけるgabapentin(600〜2,400mg/日)長期投与時の安全性および有効性を多施設共同非盲検試験にて検討した。投与期間は最長132週間であった。有効性評価項目のResponse Ratioは治療期間を通して発作頻度の減少を示した。また,発作頻度が50%以上減少した患者の割合は,48週後45.5%,96週後48.9%であり,長期的な発作抑制効果が認められた。主な有害事象は,傾眠,浮動性めまい,頭痛,倦怠感,複視など国内第III相試験と同様であり,長期投与により新たに発現する留意すべき有害事象は認められなかった。また,これらの有害事象はほとんどが投与初期に発現していた。以上の結果から,てんかん部分発作の併用治療において,gabapentinは長期投与に適した薬剤であると考えられた。
Key words :gabapentin, anti‐epileptic drug, partial seizure, refractory epilepsy, long‐term treatment

■症例報告
●Milnacipran投与後に不安・焦燥が高まり激しい自傷に至った思春期うつ病の1症例
坂下和寛  辻敬一郎  堤祐一郎  石郷岡純
 抗うつ薬,特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の投与開始初期や用量増減時に不安・焦燥,易刺激性,衝動性,アカシジア,軽躁状態などといった多様な中枢刺激症状が賦活症候群(activation syndrome)として現われることがある。しかしセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)によるactivation syndromeの症例報告は少ない。今回我々は17歳男性のうつ病例で,milnacipranの投与開始・増量に伴って不安・焦燥が高まり,激しい自傷に至った症例を経験した。若年者であった点などこの症例におけるactivation syndromeの発生リスクを高めた要因を検討したうえで,SSRIに比較して鎮静作用が弱く抗うつ作用の発現が早いという薬理学的特性も踏まえて,milnacipranによるactivation syndromeについて考察した。
Key words :milnacipran, SNRI, activation syndrome, self―injury, akathisia

●Aripiprazoleの初発例(3例)への使用経験――新世代抗精神病薬を「新世代」として使うために――
大下隆司
 新世代抗精神病薬であるaripiprazoleは,これまでの抗精神病薬とは異なる治療アプローチを必要とする薬剤であり,従来とは違った投与方法・処方計画が必要となる場合がある。今回,aripiprazoleを,統合失調症の初発例3例に使用した経緯を報告する。3例ともに,aripiprazoleは3〜6mg/日で開始し,早い時期に6〜30mg/日の範囲で増量した。Aripiprazole投与期間中に出現した不眠,頭痛,アカシジア様症状などの副作用は,いずれも軽微であり,aripiprazoleの用量の変更やベンゾジアゼピンなどの補助薬を数週間併用することにより対応できた。Aripiprazoleの効果を確認するためには,4〜12週間程度の観察が望ましいと考えられた。いずれの症例もaripiprazoleの治療により,著しく社会生活機能が改善した。今回の症例よりaripiprazoleを使いこなす方法に関するヒントが得られたので,今後これを基にさらに使用を重ねて投与方法を確立し,統合失調症治療の第一選択薬として使用する際の指針としたい。
Key words :aripiprazole, schizophrenia first episode, etiology―self―healing model, dopamine system stabilizer, new generation antipsychotics

■総説
●海外データに基づくtopiramateの基礎と臨床
兼本浩祐
 Topiramateは,強力な抗てんかん作用を持ち,部分てんかん・全般てんかんのいずれに対しても有効性が認められている薬剤である。発売当初は,高次大脳機能に対する影響が指摘されることが多かったが,低い初期用量からのslow titrationで至適用量まで漸増することで,副作用の発現を回避できることが多いことが使用経験の蓄積から分かってきている。てんかん原性に関わると考えられるAMPA受容体機能の抑制作用を有し,その神経保護作用からてんかん原性そのものへの有効性も話題となっている。Topiramateには,頻度は低いものの発汗減少,体重減少,腎・尿管結石などの特有な副作用がみられるが,既存の抗てんかん薬の多くにみられるStevens―Johnson症候群などの重篤な副作用は現時点では確認されていないことから,比較的安全な抗てんかん薬である。海外での使用経験からは,部分てんかん,全般てんかんを問わず,単剤投与でも有効性が確認されており,新たな標準治療薬となる可能性を秘めた薬剤である。
Key words :topiramate, epilepsy, anti―epileptic drug, pharmacology, AMPA receptor




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臨床精神薬理 2007年9月
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■展望
●Effectivenessを考慮した抗精神病薬の選択:2大指標としての脱落率と寛解率
石郷岡 純
 抗精神病薬の選択については,これまで多くの方法が提案され,また実行されてきた。第二世代抗精神病薬の時代になり,長期のアウトカムを見据えた治療が行なわれるようになるとともに,その選択に際しても新しい指標の必要性が高まってきている。長期の治療において優れた介入法として備えているべき要件は,概念としては,有効性,副作用,機能やQOLを包含したeffectivenessという用語で表すことができる。しかし,これを定量評価するためには新たな指標が必要であり,しかも実用的で簡便であることも重要である。脱落率は一定以上のeffectivenessを得るために不可欠なアドヒアランスのマーカーであり,寛解率はeffectivenessの達成度のマーカーとなりえる。長期の治療を念頭に置いた抗精神病薬の選択には,この2つのマーカーを用いて行なっていくべきである。
Key words :antipsychotic drug, effectiveness, discontinuation rate, remission rate

■特集 新規抗精神病薬の使い分け
●第二世代抗精神病薬の使い分け:olanzapine
藤井康男
 多剤大量処方から第二世代抗精神病薬への切り替えによって,進展がもたらされたことは間違いないが,第二世代薬そのものについては,厳しい検証の時代に入っている。本稿では米国NIMH主導の第二世代薬と第一世代抗精神病薬の長期比較試験(CATIE Schizophrenia Study)やFinlandで行われたNational Register Studyについて紹介した。そして,これらの検討結果から,地域での治療継続性が抗精神病薬のeffectivenessのもっとも重要な指標として浮かび上がってきており,この点についてolanzapineには,他の第二世代薬や第一世代薬との比較でも,一定の優位性があることを示した。しかしこの優位性には代謝面への副作用が深く影を落としていた。治療の現場が病院内から地域に移行しつつある現状では,olanzapineのメリットは存在するものの,そのデメリットを最小限にする取り組みが欠かせないであろう。
Key words :CATIE Schizophrenia Trial, olanzapine, metabolic syndrome

●再発予防の観点から見たrisperidoneの効果
尾崎紀夫
 統合失調症において難治性や機能障害の進行を食い止めるために,再発予防が重要であることが認識され,抗精神病薬の持つ再発予防効果に関する関心が高まっている。抗精神病薬がプラセボに比して再発予防効果を有していることは実証されているが,再発予防効果の検証には,長期間にわたる検討が必要であり,また再発の定義そのものが明確化されていないといった問題点があり,各抗精神病薬毎の再発予防効果に関しては十分な情報の蓄積がなされていないのが現状である。しかし,risperidoneに関しては,これまで慢性統合失調症と初発統合失調症を対象とした再発予防効果の検証が,haloperidolを対象としたRCTによって行われ,haloperidolに優る効果が報告されている。しかしながら,これらの検討結果も実臨床への応用といった外的妥当性には問題を抱えていた。さらに,外的妥当性を備えたeffective studyとして期待されたCATIEも研究デザイン上の問題を包含している。今後,デポ剤を含む抗精神病薬の再発予防効果に関して,真に臨床応用可能な情報と,再発予防効果に優れた新しい抗精神病薬の開発が待望される。
Key words :schizophrenia, relapse, antipsychotic, risperidone, effectiveness

●統合失調症治療におけるquetiapineの位置づけと今後の課題
久住一郎  小山 司
 Quetiapineは,ドパミンD2受容体からの解離が速く,一時的にしかD2受容体を遮断しないという抗精神病薬としてはユニークな作用機序を有するため,これまでの抗精神病薬(持続的なD2受容体遮断薬)とは異なった使用法の構築が必要である。わが国では,急性期治療の際のquetiapine使用量が海外と比べて少なく,急速増量法もまだ十分普及していない。Quetiapineは,副作用が少なく,高い服薬アドヒアランスが得られやすいことから,維持期治療には最適な薬剤の1つと言えるが,有効な再発予防のための用法・用量の検討や急性増悪時の対処法の工夫などが今後の課題である。統合失調症の治療は長期にわたるため,初発時あるいは急性期の段階から維持期を意識して薬物療法を開始することが重要である。その意味では,quetiapineの持つ高い安全性がより生かされるような,急性期あるいは維持期治療における使用法の確立が望まれる。
Key words :quetiapine, acute, maintenance, treatment, schizophrenia

●Perospirone―エビデンスの少ないこのSDAについて検討する
渡邊衡一郎
 Perospironeは本邦で開発され,本邦でのみ上市されている唯一の第2世代抗精神病薬である。そのためエビデンスが少なく,使用に躊躇する精神科医がいることが予想される。本稿では,数少ないながらもわが国の研究者たちがこつこつとためてきたエビデンスを紹介しながら,セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA)でかつセロトニン5―HT1A受容体の部分作動薬であるということから,不安・抑うつ,認知機能を改善させ,錐体外路症状や高プロラクチン血症を起こしにくいという本剤のプロフィールについて述べる。また代謝産物ID―15036の問題や脂溶性などにおけるユニークな薬理作用についても触れる。こうしたエビデンスから,本剤が激しい興奮例にはやはり推奨されないだろうが,初発例や抑うつや認知障害のある統合失調症の患者,さらには高齢者や身体疾患例を抱えている例に対しても十分試してみる価値があると考えられる。
Key words :serotonin1A partial agonist, serotonin dopamine antagonist, prolactin, cognitive function, second generation antipsychotics, ID―15036

●Aripiprazoleを使いこなす――他剤との比較試験と切り替え試験の結果を中心として――
高橋一志  石郷岡 純
 日本の製薬メーカーである大塚製薬が開発した統合失調症治療薬aripiprazoleが世界展開をみせている。新薬であるaripiprazoleを使いこなすためには,他剤との効果や安全性の違いをしっかり知っておく必要があるであろう。ここでは他剤との直接比較が行われた臨床試験と切り替え試験の結果について焦点を当てて検討を加えた。比較試験は3つの薬剤,haloperidol,olanzapine,perphenazineでのみ行われており,その他の薬剤では実施されていなかった。切り替え試験も数本の論文が散見される程度であった。結果を概括すると「aripiprazoleは他剤と同等の効果を有し,安全性は他薬より優る」ということになったが,エビデンスを確立していくためには,実際の臨床活動から多くの情報提供が必要であることを痛感した。
Key words :comparative trial, switching, aripiprazole, haloperidol, olanzapine

●Risperidone内用液とolanzapine口腔内崩壊錠の使い分け――精神科救急データに基づいた一考察――
武内克也  酒井明夫  岩渕 修  山家健仁  磯野寿育  福本健太郎  三條克巳  遠藤 仁  岩戸清香  工藤 薫  田鎖愛里  中村 光
 当院精神科救急における統合失調症急性期治療は,従来型抗精神病薬の注射剤による治療からrisperidone内用液(以下RIS―OS)とolanzapine口腔内崩壊錠(以下OLZ‐ODT)を中心とした経口治療に変化している。本論では,精神科救急データをもとに,2剤の使い分けについて検討した。そこでは,RIS―OSの即効性,OLZ―ODTの興奮への有用性といった特徴が示された。また,RIS―OSでは錐体外路症状,OLZ―ODTでは血糖値上昇といった有害事象出現の恐れがあり,これらを考慮して使用すべきであると考えられた。補助薬としてlorazepam使用が有用であったが,より有効な使用のためには2剤と同様の剤型が必要であると考えられた。2剤がもつ特徴を理解して使い分けることによって,急性期から維持期まで新規抗精神病薬による一貫した治療が可能になると考えられた。
Key words :risperidone oral solution(RIS―OS), olanzapine orally disintegrating tablet(OLZ―ODT), emergency psychiatry

■原著論文
●統合失調症における抗不安薬処方について――精神科病院における抗不安薬処方の実態――
尾鷲登志美  太田有光  上島国利
 統合失調症治療にあたり,ベンゾジアゼピン系薬物は臨床実地上しばしば使用されるが,その処方実態については明らかではない。そこで,精神科病院に入院加療した統合失調症患者における実際の抗不安薬の使用状況,および臨床医が抗不安薬を使用するときの目的,抗不安薬使用時の抗精神病薬の種類と用量との関係,について後方視的に調査した。その結果,2003年に入院加療した統合失調症患者415名中,60名(14.5%)にベンゾジアゼピン系薬物が定期処方箋で処方され,内訳ではdiazepamが最多であった。抗不安薬処方例では非処方例に比して有意に年齢が若かった。抗不安薬の処方標的症状の中では,不安・焦燥がもっとも多く,合わせて6割以上を占めた。非定型抗精神病薬と従来型抗精神病薬を併用している場合には,いずれかの抗精神病薬を単剤で使用している場合に比して,抗不安薬の処方割合が高かった。
Key words :schizophrenia, anxiolytic agent, benzodiazepine agent, antipsychotics, multipharmacy

●統合失調症患者の薬物治療に関する処方実態調査:精神科臨床薬学研究会会員病院9施設における2005年の調査結果から
吉尾 隆  黒沢雅広  杉村和枝  中川将人  井出光吉  宇野準二  宮本直治  梅田賢太  三輪高市  天正雅美
 国内における統合失調症の薬物治療は,多剤併用が大きな特徴であり,現在,多剤併用に関する検討が多くの研究者や臨床家により行われている。第二世代抗精神病薬の登場により統合失調症の薬物治療は低用量化・単剤化が推奨されているが,その処方実態は,依然多剤併用が多く見られる。そこで,国内における統合失調症の薬物治療の処方実態,特に単剤化と第二世代抗精神病薬の処方状況を精神科臨床薬学研究会の幹事病院9施設の入院患者について調査した。今回の調査からは,全体の抗精神病薬の平均投与剤数および投与量はそれぞれ2.0剤,812.6mg/日,単剤処方率は31.1%であること,第二世代抗精神病薬の処方率は69.4%,第二世代抗精神病薬の単剤処方率は27.1%であることが判明し,低用量化・単剤化は進んでいないことが確認された。また,多剤併用による高用量化,抗精神病薬以外の薬剤の併用率と投与量の増加などが判明した。
Key words :schizophrenia, medication, prescription investigation, polypharmacy, second generation antipsychotics

●Olanzapine口腔内崩壊錠の切り替えによる有効性,安全性の検討
法橋 明  菊山裕貴  森本一成  滝沢義忠  岡村武彦  松村人志  西元善幸  米田 博
 急性増悪期の出現によって,olanzapine口腔内崩壊錠に切り替えた統合失調症患者28例においてその有効性と安全性を検討した。前治療薬は全例olanzapine錠あるいは,risperidone錠であった。切り替え期間を1ヵ月以内と比較的短期間に設定したが,28症例のうち24例(85.7%)がolanzapine口腔内崩壊錠への切り替えが可能であった。切り替え3ヵ月後にはolanzapine錠からの切り替え群ではPANSS得点の有意な改善が認められたが,risperidone錠からの切り替え群ではPANSS得点の変化は認めなかった。Risperidone錠からの切り替え群ではDIEPSS得点の有意な減少が認められた。外来例11人に自己記入式評価尺度である主観的well―beingを用いてアドヒアランスを調査したところ,アドヒアランスの向上が認められた。
Key words :olanzapine orally disintegrating tablets, clinical study, efficacy and safety, adherence, subjective well―being (SWNS―J)

■短報
●統合失調症慢性期症例に対するrisperidone oral solutionの使用経験
内門大丈  都甲 崇  勝瀬大海  加瀬昭彦  平安良雄
 統合失調症慢性期の入院患者に対して,risperidone oral solution(Ris―OS)を導入して薬剤調整を行った14症例を後方視的に検討した。Ris―OS切り替え後6〜10ヵ月の時点で,精神症状や薬剤性の錐体外路症状を悪化させることなく,抗精神病薬のchlorpromazine(CP)換算1日内服量,benzodiazepine系薬剤のdiazepam換算1日内服量を有意に減量させることができた。最終的には,Ris―OSの継続例は11例であり,そのうち2例が寛解退院となった。これらの症例の切り替え前の抗精神病薬1日内服量のCP換算平均は1,086mgであり,切り替え後は781mgに減量された。一方中断例は3例であったが,中断例の切り替え前の抗精神病薬1日内服量のCP換算平均は1,541mgであった。これまでRis―OSは急性期治療や頓用薬としての効果が強調されることが多かったが,統合失調症慢性期の入院症例,特にCP換算1日内服量が1,000mg程度の慢性症例に対する切り替えに用いた場合,有効かつ安全に切り替えが可能であることが示唆された。
Key words :chronic schizophrenia, risperidone oral solution, BPRS, DIEPSS

■症例報告
●Zonisamideとaripiprazoleの併用により遅発性ジスキネジアが改善した1例
川崎晃一  稲永和豊
 35年にわたり抗精神病薬を投与されていた統合失調症患者にみられた中等度のジスキネジアに対して,zonisamide100mg/日を投与した。AIMS総得点は投与前17点であったが,投与2週間後は13点,投与4週間後は8点まで改善した。さらに200mg/日に増量したが,AIMS総得点は変化しなかった。その後投与中であったVegetaminB1T/日を中止しrisperidone6mg/日を漸減中止,aripiprazoleに切換え6mg/日より開始し13日後に12mg/日に増量したところ,AIMS総得点は1点となった。ZonisamideのT型Ca channel遮断作用,Na channel遮断作用によりジスキネジアを軽度まで改善させたことが考えられた。また追加投与したaripiprazoleのdopamine stabilizing作用により,ジスキネジアの発現をさらに軽減させたと考えられた。
Key words :tardive dyskinesia, zonisamide, T―type Ca channel blocker, aripiprazole, dopamine stabilizer

●Olanzapineからaripiprazoleへの置換によりメタボリックシンドロームと高プロラクチン血症が改善した統合失調症の1例
湯川尊行  渡部雄一郎  小泉暢大栄  染矢俊幸
 Olanzapine(OLZ)は体重増加や糖脂質代謝異常といったメタボリックシンドローム(MS)につながる病態を惹き起こす危険性があり,血中プロラクチン(PRL)濃度を有意に上昇させるという報告もなされている。このためOLZによるこれらの有害事象には十分な注意を払う必要がある。今回我々はOLZ投与中にMSを指摘され,aripiprazole(ARP)への置換によりMSと高PRL血症が改善した51歳,女性の統合失調症の1例を経験した。ARPはMSや高PRL血症を惹起する可能性が低いことが二重盲検比較試験により確認されており,各種ガイドラインでもこれらの病態を有する場合,ARPの投与が推奨されている。ただし,ARPの投与時にも,定期的な体重測定,糖脂質代謝異常のモニタリング,生活指導が必要である。また,今後もARPの特に長期安全性について症例を蓄積することが重要と思われる。
Key words :schizophrenia, metabolic syndrome, hyperprolactinemia, olanzapine, aripiprazole

●Aripiprazoleへの切り替えによりparkinsonismが軽快しADLが向上した統合失調症の1例
永野龍司  二宮貴至  石田剛士  安藤延男  篠原朝美  亀井聖史  永嶌朋久  高橋正彦  新野秀人  中村 祐
 非定型抗精神病薬であるperospironeが投与されparkinsonismが顕著化した慢性統合失調症患者にaripiprazoleへの切り替えを行った。精神症状の改善は軽度に認められ,parkinsonismは顕著に軽減した。また,本人も体の軽さや歩行障害の改善を強く自覚し,ADLの著しい向上を認めた。一方,不眠や多動などが認められたが,aripiprazoleが過鎮静の少ない薬剤のためであると考えられた。したがって,本薬剤を投与するにあたっては,本薬剤の薬理特性を十分理解することが重要であると考えられた。副作用としての過鎮静や錐体外路症状などが少ないaripiprazoleは,症例によってはADLの向上・社会復帰などに有用な薬剤と考えられた。
Key words :schizophrenia, aripiprazole, parkinsonism, ADL

●Olanzapineとhaloperidol―decanoateを併用した統合失調症治療についての一考察
塚本 壇
 統合失調症の薬物療法においては,特に再発を繰り返す症例への単剤療法は困難な場合が多く,病態や病期に応じて各種向精神薬が併用されているのが実情である。本稿では統合失調症でolanzapineとhaloperidol―decanoateの併用が奏効した典型的な3症例を報告するとともに,同様の治療戦略により有効性が期待される症例群について,その特徴を整理した。経口抗精神病薬と持効性抗精神病薬の併用は,事実上単剤療法からは離反する内容となるが,用法および再発の減少が期待できる点からは,見直される価値のある治療戦略と考えられる。統合失調症の折衷的薬物療法について,ドパミン仮説とグルタミン酸仮説を概略しつつ,精神症候学,精神生物学,精神薬理学を覚醒水準という切り口で橋渡しをしながら考察を試みた。
Key words :apoptosis, excitotoxicity, hyperarousal, hypofrontality, up―regulation

●新規抗精神病薬aripiprazoleの使用経験からの考察
安部康之
 今回,新規抗精神病薬aripiprazoleを,新患1例,他剤からのスイッチング2例に使用した経緯を報告した。症例1は初発の少年で,aripiprazole6mg/日で過鎮静に至らず症状をコントロールでき,患者と医師の関係性向上に寄与できた。症例2は前薬でジスキネジアが出現していたが,aripiprazoleへのスイッチングによりジスキネジアが消失し,症状も改善したことで,患者と医師の信頼関係が向上した。症例3は,前薬で性機能障害,アカシジア,過鎮静があり拒薬につながり,aripiprazoleにスイッチングしたが,特に性機能障害が消失したことが患者の治療に対する意欲を引き出し,患者と治療スタッフの信頼関係が向上した。Aripiprazoleは,統合失調症の治療において従来の薬剤と効果は同等であるが,副作用については優れているため,患者と治療者の信頼関係を築きやすく,結果としてアドヒアランス向上を期待できる新薬であると言える。
Key words :aripiprazole, schizophrenia, switching, adherence



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臨床精神薬理 2007年8月
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■展望
●臨床薬理遺伝学の現状と課題
染矢俊幸  澤村一司  福井直樹  Ozdemir Vural
 これまでの臨床精神薬理学研究では,少数の遺伝子と臨床効果との関連解析から臨床効果予測に有用な遺伝子マーカーが同定されてきたが,臨床効果という表現型には複数の遺伝子およびそれらの間の相互作用,社会・環境的因子などさまざまな要因が影響しているため1つの遺伝子マーカーの同定では治療効果予測に十分なパワーを持たない。こうした背景とゲノム技術の発展により,包括的・網羅的な遺伝子解析から臨床効果を予測する薬理ゲノム学的アプローチへの関心が高まっている。しかし,薬理ゲノム研究によるオーダーメイド薬物治療実現には,遺伝子間の相互作用を仮定した解析方法の確立,ゲノム情報と臨床情報,社会・環境因子を統合したデータベース構築など多くの課題がある。またtheragnosticsの概念から,薬理遺伝学・薬理ゲノム研究とプロテオーム研究やメタボローム研究との連携の重要性が示唆されており,それらは今後の薬理遺伝学・薬理ゲノム研究に活用されるべきである。
Key words :pharmacogenetics, pharmacogenomics, theragnostic, individualized pharmacotherapy

■特集 オーダーメイド医療の時代は来るか―臨床薬理遺伝学の現状と課題
●抗精神病薬の治療効果を予測できるか
岩田仲生
 個々人に最適な治療選択を事前に予測して行うテーラーメイド医療の実現が昨今求められてきている。テーラーメイド医療の基盤技術として最も有力視されているのが遺伝情報を元に薬物の種類・用量などを決定する遺伝薬理学である。中枢神経領域ではこれに脳内の特定分子を可視化する分子イメージングと組み合わせることによって実現を図ろうとしている。抗精神病薬についてはこれまでどの薬物が個々人でどの程度有効なのかは投与してみないと判別できなかった。一方でclozapineのような重篤な副作用の発現をもし事前に予測できたらという観点から精神科領域での薬理遺伝学がすすめられてきている。本稿では特に抗精神病薬の治療効果に焦点をあて,これまでの薬理遺伝学的治験を整理するとともに今後の薬理遺伝学の方向性について述べたい。
Key words :pharmacogenetics, personalized medicine, polymorphisms, dopamine receptor, serotonin receptor

●抗精神病薬による錐体外路系副作用の予測
岸田郁子  河西千秋
 抗精神病薬の副作用の1つである錐体外路症状(extrapyramidal symptoms:EPS)は,患者へのデメリットが高く,治療の妨げになることも多い。新たな薬物の開発が重要である一方で,薬物投与前に副作用の発現を予測できる因子の研究が進められている。これまでの薬理遺伝研究では,薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2D6や1A2,ドーパミンD2,D3受容体遺伝子やセロトニン2A,2C受容体遺伝子などが候補遺伝子となっている。それぞれの遺伝子多型でEPSとの関連があるという報告も多いが,いずれも臨床に援用できるほどの明確な結論が出ていないのが現状であり,今後は,詳細な臨床情報と薬剤履歴を収集した上で,均質な集団を対象とした大規模な解析や,ハプロタイプ解析,また薬物動態学的観点と薬力学的観点の双方を考慮するなど複数因子を組み合わせた多層的検討が必要と考えられる。
Key words :extrapyramidal symptoms, polymorphism, cytochrome P450, dopamine receptor gene, serotonin receptor gene

●抗精神病薬による水中毒をどう予測するか
新開隆弘  大森 治  中村 純
 精神科領域の臨床において,多飲行動が起こることは比較的よく観察される。病的な多飲のため低Na血症が生じ,けいれんや意識障害といった中枢神経障害を起こし(水中毒),時には死に至るケースもある。病的多飲の病態生理については,抗精神病薬が関与する抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)が一部想定されているが,いまだ不明な点も多く,確立した治療法や予防策は見出されていない。これまでの研究で病的多飲の危険因子として男性,喫煙,統合失調症,白人,疾患の慢性化,SIADHの原因薬剤などが指摘されてきた。我々は臨床遺伝学的研究(家族研究)により,統合失調症における病的多飲の成立に遺伝要因が関与することを指摘した。現在,分子遺伝学的手法により,候補遺伝子と統合失調症における病的多飲との関連研究がいくつか報告されている。遺伝的プロフィールにより病的多飲や水中毒のリスクを予測し,個々人に最適な薬物選択を可能にする薬理遺伝学的なアプローチによって,より有効な対策に向けた取り組みが始まっている。
Key words :polydipsia, water intoxication, schizophrenia, antipsychotics, pharmacogenetics

●第二世代抗精神病薬による肥満,糖尿病発症の遺伝的側面
佐藤 靖  古郡規雄  兼子 直
 近年,第二世代抗精神病薬(second generation antipsychotics,SGA)内服中の統合失調症患者における体重増加と,高血糖,糖尿病,高脂血症などの代謝疾患との因果関係が示唆されている。これは,SGAの中でも,clozapine,olanzapineなどに報告が多く,薬剤間の差異が存在すると思われる。また,同じ薬剤を内服している個人においても,疾患発症の有無がある。健常人における肥満や糖尿病発症の候補遺伝子として,摂食,消費,脂質や糖代謝,インスリン感受性等に関与する脂肪細胞由来の生理活性物質(アディポサイトカインadipocyotokin)や,受容体,酵素蛋白等の遺伝子多型,遺伝子変異が多く発見されている。SGA内服後,5―HT2C受容体の遺伝子多型により,肥満の有無が生じる可能性があることが報告されている。また,初発薬剤未投与の統合失調症患者において,耐糖能低下が指摘されている。疾患発生の機序を含め,多くが未解明であり,遺伝子との関連を含め,今後の研究が待たれる。
Key words :metabolic syndrome, second generation (atypical) antipsychotics, diabetes mellitus, visceral adipose tissue polymorphism

●臨床薬理遺伝学からみた抗うつ薬の治療効果予測
奥川 学  加藤正樹  分野正貴  嶽北佳輝  高瀬勝教  吉村匡史  木下利彦
 うつ病治療において三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬が用いられていた時代には,治療薬の選択にKielholzの分類が使われていた。1990年代に入り,本邦において新規抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が導入された。これによりうつ病治療薬の選択肢が増えた。しかし,新規抗うつ薬は,従来の抗うつ薬と異なる副作用が出現するという問題を有している。一方,抗うつ薬による治療効果発現や副作用出現には個人差がある。これらの反応性の差異は,抗うつ薬が作用する部位の遺伝子多型の違いにより生じると考えられている。今後抗うつ薬の効果発現や副作用出現と作用部位の遺伝子多型との関係を明らかにする目的から,治療前にDNAチップを用いてうつ病患者の遺伝子多型を調べておくことにより抗うつ薬治療に対する反応性を予測することが可能になると考えられる。
Key words :antidepressant, DNA chip, fluvoxamine, paroxetine, pharmacogenetics

●SSRIの副作用をどう予測するか
須貝拓朗  鈴木雄太郎  染矢俊幸
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,現在うつ病をはじめ不安障害や強迫性障害など多くの精神疾患薬物療法においてその地位を確立させている。確かに従来の抗うつ薬と比較すると副作用出現の頻度は軽減した感がある。しかしいまだにその副作用は患者の服薬コンプライアンスを低下させ,治療継続を困難とする一因として多くの臨床家を悩ませている。近年,適切な治療,患者の負担軽減を目的としたオーダーメイド医療の実現が期待されてきている。治療効果や副作用出現がある程度予測可能になれば,患者や臨床家にとって大きな薬物療法の転機となるであろう。本稿ではSSRIによる副作用出現の予測指標として,薬物動態学的因子(血中濃度,CYP2D6遺伝子多型)や薬力学的因子(セロトニントランスポーター遺伝子多型,セロトニン受容体遺伝子多型)を中心にこれまで行われている薬理遺伝学的研究およびTDM関連研究について概説する。
Key words :adverse event, SSRIs, CYP2D6, serotonin transporter, serotonin receptor, TDM

■原著論文
●統合失調症患者へのolanzapine治療と主観的ウェルビーイングの変化
藤田和幸  宍戸伸隆  村上浩亮  鈴木 滋  兼本浩祐
 統合失調症患者におけるolanzapine長期投与時の有効性と安全性の検討を行った。同時にSWNS―Jを用いた主観的ウェルビーイングの評価を行った。対象症例はICD―10によって統合失調症と診断された30例で,そのうち28例は入院患者であった。試験期間は24週であり,4例はolanzapine投与開始時に抗精神病薬の処方がない状態でolanzapineを新たに投与し,26例は他の抗精神病薬からolanzapineに切り替えた。切り替えは漸減漸増法を用い,切り替え前の抗精神病薬は主剤以外の併用薬1剤に限って必要最少量を調査期間中に併用可とし,同様に抗パーキンソン薬も可能な限り減量することとした。ベースラインと切り替え後24週時とを比べると,PANSS合計点は26例で改善し,20%以上の改善率を示したのは11例だった。18人の患者がSWNS―Jの調査に参加を承諾し,主観的ウェルビーイングは18人中12人の患者で改善した。24週時に8例が7%以上の体重増加を示した。Olanzapine投与前に錐体外路症状が認められた26例のうち,切り替え後に20例が軽減し,増悪した症例はなかった。調査期間内に2例が再燃し,1例は治療を中断した。本調査結果からolanzapineによる長期治療は有効性および安全性ともに優れ,統合失調症治療に有用な薬剤であると考えられ,主観的ウェルビーイングにも好影響があると思われた。
Key words :olanzapine, subjective well―being, long―term treatment, relapse, schizophrenia




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臨床精神薬理 2007年7月
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■展望
●統合失調症の認知機能障害――病態と治療――
伊豫雅臣
 認知機能障害はKraepelin以来統合失調症の中核的症状であると認識されてきたが,近年さらに認知機能への注目が高まっている。この障害の程度には個人差があるが,全般的に障害されていると報告されている。これらの障害は就労や日常生活に支障をきたすため,その適切な評価と治療法の開発が期待される。認知機能は神経心理学検査により評価されるがそれらは日常臨床にはなじまないことも多く,より臨床的に有用な評価方法の開発が望まれる。統合失調症の認知機能障害の治療では従来型抗精神病薬が認知機能障害に影響している可能性がある一方,新規非定型抗精神病薬は認知機能を悪化させない,または改善する可能性があり,まずは従来型から新規非定型に抗精神病薬を変更することが重要と考えられる。心理社会的アプローチも有用であるが,最近ニコチンα7受容体アゴニストやシグマ1受容体アゴニストなど認知機能改善が期待される薬剤の開発も行われてきている。
Key words :schizophrenia, cognitive function, neuropsychological test, atypical antipsychotics

■特集 統合失調症の認知機能障害
●統合失調症の認知機能障害に関する臨床的問題点
松岡洋夫
 統合失調症における認知機能障害はこの疾患の病態の中核をなすと考えられ,治療標的として注目されている。しかし,認知機能障害の定義は様々で,病態構造における位置づけも曖昧である。さらに,認知機能の評価方法も多様である。ここでは,臨床医学と基礎医学における認知の定義,および統合失調症での神経心理学の研究を概観した上で,統合失調症における認知機能障害の定義,実体,病態論における位置づけに関する筆者の考えを中心に述べ,最後に認知機能障害の評価にまつわるいくつかの臨床的問題点(精神症状との関連,認知機能障害の時間的変化,評価方法)についてふれた。
Key words :cognition, neuroimaging, neuropsychology, psychophysiology, schizophrenia

●認知機能障害の病態機序――画像診断・神経生理検査からの評価――
武井邦夫  山末英典  笠井清登
 認知機能障害の脳病態を把握するためのツールとしては神経画像・神経生理検査が広く用いられている。本章ではまず統合失調症の認知機能障害を神経画像・神経生理検査から評価することの意義について,認知機能障害の責任部位の同定に加え,統合失調症のエンドフェノタイプとしての観点から述べる。後半では,認知機能障害と神経画像との関係について,最近注目されている拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging;DTI)を例にとって概説する。統合失調症は単一の脳部位の障害ではなく,複数の脳部位間の機能的な統合不全が本態であると考えられている。この機能的なconnectivity障害の基盤としては,白質神経線維束の構造異常が推定されており,白質の統合性を評価するツールとしてDTIが用いられている。DTIにより統合失調症での異常が報告されている脳梁,帯状束,鉤状束,脳弓などの神経線維束について,認知機能障害との関係を概観した。
Key words :schizophrenia, cognitive dysfunction, diffusion tensor imaging, white matter, fornix

●認知機能評価バッテリーについて
椎名明大
 認知機能を評価するための神経心理検査は多数存在するが,統合失調症患者の認知機能障害を適切に査定するために標準化された評価バッテリーは未だ確立されたとはいえない状況にある。本稿においては,認知機能の分類(作動記憶,注意機能,実行機能等)とそれぞれの要素における代表的な神経心理検査について簡潔に述べる。また,統合失調症患者に対する認知機能評価バッテリーの考え方を説明し,その具体例として,Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS),Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia(BACS),Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery(CANTAB)等について紹介する。
Key words :cognitive function, test battery, Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome (BADS), Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia (BACS), Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery (CANTAB)

●向精神薬によって発現する認知機能障害
長田泉美  中込和幸
 統合失調症の治療に用いられる向精神薬が認知機能に及ぼす影響について概観した。まとめると,(1)第1世代抗精神病薬は,運動機能低下を来たすが,注意,記憶に関しては,用量や併用薬の影響があり,結論は得られない。(2)第2世代抗精神病薬は,認知機能障害を悪化させることは少ない。(3)抗パーキンソン薬は,注意と記憶機能を低下させる可能性が高い。(4)気分安定薬の中では,lithiumが記憶への悪影響をもたらすが,valproateとcarbamazepineによる影響は軽微である。(5)Benzodiazepine系薬物は,注意と記憶の機能低下を来たすことがある。(6)抗うつ薬については,三環系と四環系では記憶機能が低下する可能性があるが,SSRIとSNRIによる影響は現時点ではほとんどないとされている。
Key words :cognitive deficits, schizophrenia, psychotropic drugs

●第2世代抗精神病薬の認知機能障害に及ぼす影響
山本暢朋  稲田俊也
 統合失調症患者の認知機能障害に関しては,神経心理学的検査を応用して評価・検討する試みが行われている。本稿では第1世代抗精神病薬が認知機能に与える影響について簡単に触れた後に,第2世代抗精神病薬が認知機能障害に与える影響について最近の知見を中心に紹介した。第1世代抗精神病薬に比べて第2世代抗精神病薬が認知機能に良好な影響を与えることについての臨床的なエビデンスは集積されつつあるものの,個々の第2世代抗精神病薬や領域ごとの認知機能改善に関する相違点についての臨床報告はまだ十分とはいえない状況である。抗パーキンソン薬の併用は認知機能を悪化させる可能性がある。統合失調症患者の社会的転帰は認知機能障害との関係だけでなく,心理・環境的要因も大きく影響する。今後は第2世代抗精神病薬を合理的に使用することで認知機能の改善を図ると同時に,作業療法や生活技能訓練などを並行して行い,包括的な治療アプローチを構築していくことが期待される。
Key words :schizophrenia, cognitive dysfunction, second generation antipsychotics, atypical antipsychotics

●認知機能障害の治療薬開発の現状
橋本謙二
 統合失調症の認知機能障害はこの疾患の中核的症状であると考えられており,近年,認知機能障害に対する関心が高くなっている。本総説では,統合失調症の認知機能障害の治療薬として期待されている薬剤の開発状況について述べる。特に,統合失調症患者の聴覚誘発電位P50の異常との関連が指摘されているニコチン受容体のα7サブタイプのアゴニスト(tropisetron,DMXB―A,SSR180711),および統合失調症のN―methyl―D―aspartate(NMDA)受容体機能低下仮説との関連で注目されているグリシントランスポーターの阻害薬(sarcosineなど)について,最新の研究成果と今後の展望について考察する。
Key words :cognition, α7 nicotinic receptor, NMDA receptor, glycine transporter

■特集 精神疾患におけるシグマ受容体の役割
●シグマ受容体の構造,分子・生理的役割
林  輝男
 近年の分子生物学的検討により,シグマ受容体の概念は大きく変遷した。シグマ1受容体は,主として小胞体に存在する,膜2回貫通型の細胞内受容体である。脳内では部位特異的に,神経細胞,グリア細胞内に発現する。シグマ受容体は小胞体上のIP3受容体に直接連結し,小胞体からのカルシウム流出を増強する。リガンドによる受容体の細胞内移行は,作用の場を小胞体から細胞膜へシフトする働きを持つと推測される。本受容体は細胞膜へ移行後,カリウムチャンネルに結合し,NMDA受容体の活性,神経の興奮性を調節する。一方,精神活性物質などの慢性投与でもたらされるシグマ受容体数の増加は,リガンド非依存的にシナプスやミエリン形成を促進し,細胞の形態学的変化を誘導する。現時点における分子細胞,前臨床実験の結果を鑑みるとき,シグマ受容体の神経細胞分化・保護作用,抗うつ効果は,新規治療ターゲットとして注目に値すると考える。
Key words :sigma receptor, sigma―1 receptor, calcium, neuronal plasticity, depression

●うつ病におけるシグマ受容体の役割について
竹林  実
 シグマ1受容体は,SSRIなどの抗うつ薬や神経ステロイドに親和性が高い特徴をもち,神経の分化・新生などの神経可塑的なプロセスや,情動ストレス,認知機能や薬物依存などの高次脳機能に対して広範囲に関与する。そして,細胞膜の脂質・糖脂質の分布を変化させることにより,成長因子・栄養因子の反応性を修飾し,効果を発現している可能性がある。うつ病に関しては,いくつかのシグマ1受容体リガンドが治療薬として国内で開発中である。DHEAなどの神経ステロイドの臨床試験も海外で行われている。シグマ1受容体の研究がさらに進展し,モノアミンと異なる新しい観点からの創薬が進むことが期待される。
Key words :sigma―1 receptor, depression, antidepressant, neurosteroid

●PETによるヒト脳のシグマ1受容体マッピング
石渡喜一
 PETによるヒト脳のシグマ1受容体を画像化するための放射性薬剤として[11C]SA4503を開発した。[11C]SA4503―PETの90分間のダイナミック計測により,ヒト脳のシグマ1受容体を計測できることが明らかになった。受容体は脳に広く分布し,アルツハイマー病では海馬でその低下が顕著であること,パーキンソン病の線条体では重症側でより低下する傾向が明らかになった。今後,統合失調症等の精神疾患への応用が期待される。また,[11C]SA4503―PETにより向精神薬等の薬物のシグマ1受容体占拠率の評価も可能であり,薬効評価の新たなツールとなることも期待される。
Key words :positron emission tomography, sigma 1 receptor, brain, [11C]SA4503

●PETによるシグマ1受容体測定の意義
石川雅智  橋本謙二  伊豫雅臣
 ポジトロンCT(陽電子放出断層撮像法,Positron Emission Tomography,PET)は短寿命のポジトロン核種を用いて,脳循環代謝・神経受容体などの画像化・定量化が可能な高次脳機能を検査できる技法である。シグマ1受容体は,発見の経緯や多くの向精神薬が親和性を持つことから精神疾患との関連が指摘され続けている。このため,PETを用いてシグマ1受容体を測定することは,精神疾患の病態生理や新たな経路を介した治療法の開発につながる可能性を秘めている。なお,現在ヒトのシグマ1受容体の定量測定ができるのはPETだけである。本編では統合失調症,うつ病,認知・記憶障害の病態生理におけるシグマ1受容体のかかわりに触れ,そのかかわりの深さから精神疾患においてシグマ1受容体をPETにより測定することの意義の大きさを表現しようと試みた。
Key words :positron emission tomography, sigma―1 receptor, schizophrenia, depression, cognitive impairment

●精神疾患とシグマ―1受容体遺伝子との関連
宮武良輔  笠井清登
 多くの行動薬理学的・分子生物学的な研究から,シグマ―1受容体と精神疾患の関連が示唆されている。シグマ―1受容体遺伝子の転写領域のGC―241―240TT多型,エクソン1のGln2Pro多型などいくつかの遺伝子多型が明らかにされ,精神疾患との相関研究が行われた。最初に統合失調症との有意な相関が報告されたが,その後3報の追試において相関は否定された。これら4報のデータを集計し健常群883例,疾患群736例についてメタ解析を行ったが,統合失調症との相関は認められなかった。その他,アルツハイマー型認知症,覚せい剤乱用やアルコール依存症を対象とした研究が行われた。ここでは,これらの相関研究を中心に,精神疾患とシグマ―1受容体遺伝子との関連について概説する。
Key words :sigma―1 receptor, polymorphism, association study, schizophrenia

●統合失調症の認知機能障害および精神病性うつ病におけるシグマ―1受容体の役割
橋本謙二
 シグマ―1受容体は統合失調症や気分障害の病態に関与していることが報告されており,これらの精神疾患の治療ターゲットとして注目されている。統合失調症の認知機能障害はこの疾患の中核的症状であると考えられており,近年,認知機能障害に対する関心が高くなっている。最近筆者らは,統合失調症のN―methyl―D―aspartate(NMDA)受容体機能低下仮説に基づいた認知機能障害モデル動物において,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の1つであるfluvoxamineがシグマ―1受容体を介して改善作用を示すことを報告した。一方,精神病性(妄想性)うつ病の治療にSSRIの中でもfluvoxamineが最も治療効果があることが報告されており,fluvoxamineのシグマ―1受容体アゴニスト作用が精神病性うつ病の治療メカニズムに寄与していることが示唆されている。本総説では,統合失調症における認知機能障害の治療薬としてのシグマ―1受容体アゴニストの可能性および精神病性うつ病におけるシグマ―1受容体の役割について,最新の研究成果と今後の展望について考察する。
Key words :cognition, sigma―1receptor, NMDA receptor, psychotic depression, fluvoxamine

■原著論文
●Olanzapine初期投与量の違いによる急性期症状の変遷――PANSSによる3ヵ月間の精神症状評価――
杉山克樹  中田信浩  岡掛真史  重本  拓
 統合失調症の急性期治療を行うにあたり,olanzapine10mgを初回投与し,24時間以内にさらにolanzapine10mgを追加投与し用量を20mgにする群(急速増量群)とolanzapine10mg以下で治療を開始しその後72時間まで1日投与量の増量を行わない(非急速増量群)の2群に分けて前向きな検討を行った。その結果,(1)PANSSスコアの変化は,急速増量群で非急速増量群に比較して,治療初期(3日間)の総得点および陰性症状・認知障害といった中核症状で有意に大きい結果であり,初期よりolanzapine20mg投与することの有用性が示された。(2)7例で錐体外路症状を認めたが,いずれも軽度で,初期用量による違いはなかった。また1例に軽度の女性化乳房(プロラクチン値:15.72ng/ml)を認めたが,血糖値の上昇を含め,その他副作用の発現は無かった。Olanzapineは統合失調症急性期においても忍容性の高い薬剤であり,20mgで治療開始することの,有用性と安全性が示唆された。
Key words :schizophrenia, acute phase, olanzapine, initial dose, PANSS

●Blonanserinの薬理学的特徴
釆  輝昭  久留宮 聰
 BlonanserinはドパミンD2受容体に加えてセロトニン5―HT2A受容体を遮断するという,第二世代抗精神病薬に特徴的な性質を有している化合物であり,現在,抗精神病薬として開発中である。Blonanserinは統合失調症の陽性症状,陰性症状,認知障害などへの効果を裏付ける代表的な薬理試験において,強い作用を示した。一方,錐体外路症状,過鎮静・眠気,ふらつきなどの副作用を評価する試験において,その作用は軽度であった。また,D2受容体及び5―HT2A受容体に対する選択性が既存の第二世代抗精神病薬に比べて高く,起立性低血圧,眠気,体重増加,消化器系障害,記憶障害などの副作用に関与するアドレナリンα1,セロトニン5―HT2C,ヒスタミンH1あるいはムスカリンM1受容体への親和性は低かった。以上の結果は,blonanserinが統合失調症の陽性及び陰性症状を改善し,錐体外路症状の誘発頻度が低く,既存の抗精神病薬よりも眠気,起立性低血圧,体重増加などの副作用発現が少ない薬物であることを示すものであり,このことは臨床試験の結果と一致するものであった。本論文では,blonanserinの薬理学的特徴についてまとめた。
Key words :blonanserin, second―generation antipsychotics, D2 receptor antagonist, 5―HT2A receptor antagonist, schizophrenia



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臨床精神薬理 2006年6月
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■展望
●薬物療法のエビデンスをどのように日常臨床に活かすか
坂元 薫
 精神科薬物療法のエビデンスを日常臨床に活かす過程の第一歩として,精神科薬物療法の現状を批判的に概観した。多剤併用・大量投与,抗うつ薬の少量漫然投与,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の多用,処方の不適切な変更,粗雑な診断・安易な処方,患者のアドヒアランスの盲信などの点を挙げた。次にエビデンスを臨床に活かす4つのステップを概観したうえで,エビデンスを手軽に日常臨床に適用できるように開発された治療ガイドラインのうち代表的なものを概説し,その有効性と限界に触れ,臨床使用上の留意点について述べた。またエビデンスそのものの陥穽ならびに臨床応用上の問題点について指摘し,そうした点を克服するため近年行われたreal―world practiceに即した大規模臨床試験の1つであるCATIE研究の紹介を通して,精神科薬物療法のエビデンスを効率的かつ適切に日常臨床に活かすヒントを探ってみた。
Key words :evidence based psychiatry, polypharmacy, PECO, treatment guideline/algorithm, CATIE

■特集 日常臨床とエビデンスのギャップを探る
●うつ病に対するmethylphenidateの是非
安部川智浩  伊藤侯輝  小山 司
 Methylphenidate(MPH)の主な薬理作用は,ドパミン神経終末でのドパミントランスポーターを介したドパミン再取込み阻害により,シナプス間隙のドパミン濃度を増加させることにある。MPHの適用として,難治性うつ病,遷延性うつ病に対する抗うつ薬との併用があげられる本邦の状況は,諸外国と比べて特異であり,その効果については二重盲検法による十分なエビデンスに欠ける。薬物による人為的な辺縁系ドパミン神経伝達の賦活は,一過性の爽快感,快感による苦痛からの解放を体験させるが,一方で,乱用,依存につながり,幻覚・妄想などの精神病症状を惹起する危険性も内包する。したがって,現状においては,MPHを治療抵抗性うつ病のみならずうつ病の治療として積極的に位置づける状況にない。抗うつ薬に治療抵抗性のうつ病の病態の1つとして,辺縁系ドパミン伝達の低下が想定されるが,こういった症例にMPHを使用選択する前に,性格要因や心理社会的環境を含めた全体像からみたうつ病診断の適非の検討,治療抵抗性の真否の検討がなされるべきである。治療抵抗性うつ病に対しては,薬物療法による辺縁系ドパミン神経伝達賦活への過度な期待を慎み,認知行動療法や精神療法との統合に,全人的な病としてのうつ病への治療論を高めていく必要があると考える。
Key words :methylphenidate, treatment resistant schizophrenia, dopamine

●うつ病に対するsulpirideの有用性とエビデンス
金野 滋
 Sulpiride(SLP)はわが国で臨床使用されている向精神薬のなかで,その使用対象が統合失調症から抑うつ・不安状態,身体表現性障害など多彩な病態まで広がる特異な薬剤である。また,処方件数も常にトップクラスに位置している。一方で,そのようなSLPの臨床的あり方への問題意識も提出されている。現在,使用頻度が最も高いのは軽ないし中等症の抑うつ・不安状態に対してであるので,主として抗うつ薬としての現在までの試験成績を,エビデンスレベルを念頭に置きながら概観した。SSRI採用以降のSLP使用の実態,SSRIやD2受容体作動薬との併用の実情,副作用とそれへの対応についても具体的に述べ,近年,欧州で頻用されてきている極めて類似の構造を持つbenzamide系薬物amisulprideについても触れた。総合的に判断し,SLPに対し抗うつ薬としてのエビデンスレベルの高い試験はmeta―analysisが可能なまでに行われてはいないが,軽症ないし中等症の気分障害の抑うつ・不安状態に対し,SLPの治療効果は早期出現すると判断して良いと考える。抑うつ,不安などの感情・情緒や認知機能と前頭葉皮質DA神経系との関連についての所見が,最近,増えつつあり注目されている。今後のSLPの臨床使用に関する薬理的基盤の理解や前頭葉DA系に関する研究的知見を理解する一助となることを期待し,SLPの作用機序についてDA神経系への作用を介し抗うつ,抗不安作用を発現するという仮説を紹介した。
Key words :sulpiride, depression, antidepressant, SSRI, D2 receptor, autoreceptor, frontal cortex

●不安・気分障害に対するベンゾジアゼピンの役割と長期投与
中原理佳  張 賢徳
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の登場以降,うつ病のみならず不安障害に対しても,SSRIを第一選択薬として推奨するガイドラインが欧米を中心に作成されてきた。一方,特に欧米ではベンゾジアゼピン系薬物(BZD)の副作用が強調され,「危険な薬」とさえみなされる傾向がある。BZDの副作用としては眠気・ふらつき,認知機能障害が有名だが,常用量依存による長期服用も重大な問題である。これらの副作用は,BZD投与初期から短期間の投与で済ませようという意識と,BZD投与継続中に折に触れその必要性を検討する意識を処方医が持つことで,ある程度回避できる。強力で即効性のある抗不安効果というBZDの特性は臨床上必要なものであり,BZDの使用を過度に控える必要はないが,漫然と長期に投与することはよくない。非BZD系抗不安薬や抗不安効果を有する漢方薬の投与を検討したり,薬に頼り過ぎないように導く認知行動療法的アプローチが必要である。
Key words :benzodiazepine, SSRI, anxiety disorder, mood disorder

●Tandospirone(セロトニン1Aアゴニスト)の位置づけと可能性
美根和典  村田雄介
 Tandospironeは本邦で使用可能な唯一のセロトニン1Aアゴニストである。依存性はないがベンゾジアゼピンに比べて抗不安作用が弱いとされ,その使用場面は限られていた。予備的臨床研究により,これまで最も一般的に用いられてきた30mg/日という投与量では必ずしも有効血中濃度に達せず,60mg/日の投与がより確実な抗不安作用を発現するのではないかと考えられる結果が示された。またラットの恐怖条件付けストレス誘発フリージング行動モデルを用いてその薬物動態学的・薬力学的根拠を示した。まだ予備的研究段階ではあるがparoxetineと十分な投与量のtandospironeとの併用によるいわゆるセロトニン強化療法は,難治性のうつ病性障害および初回治療例において優れた治療効果を示すことを示唆するとともに,本療法の文献的考察を行った。
Key words :tandospirone, paroxetine, serotonin augmentation

●単極性うつ病に対するlithium強化療法の効果
吉野相英
 単極性うつ病の標準的な初期治療は抗うつ薬の単剤治療であるが,この治療に充分反応しない場合,第2段階の治療戦略として,抗うつ薬の高用量投与,別の抗うつ薬への切り替え,抗うつ薬の併用,抗うつ薬の強化療法が検討される。この多様な選択肢の中で,lithium強化療法は最高レベルのエビデンスを有する有効率45%の治療法であり,ほとんど全ての治療アルゴリズムに組み込まれている。にもかかわらず,日常臨床においてlithium強化療法が選択されることは意外と少ない。このギャップの理由として,保険適応外使用であることがまずは考えられるが,lithiumの安全性,利便性,忍容性に対する懸念も影響しているかもしれない。また,新世代抗うつ薬,非定型抗精神病薬に比べて,宣伝や露出が少ないことも理由の1つかもしれない。この強化療法よりも有効なnext stepの治療法が発見されていない以上,lithium強化療法を今一度見直してみたい。
Key words :augmentation, evidence, lithium, major depressive disorder, treatment algorithm

●非定型抗精神病薬の非定型的適用のエビデンス
黒木俊秀
 現在,非定型抗精神病薬の適用は,統合失調症以外の様々な非精神病性障害へと広がりつつある。米国では双極性障害に対する適用が既に確立しており,その他,単極性うつ病,強迫性障害,外傷後ストレス障害などの不安障害,さらにパーソナリティ障害などに対する有効性を検証した二重盲検比較試験が報告されている。それらは,少数例を対象にしたパイロット研究が大部分であり,治療抵抗性症例に対してセロトニン再取り込み阻害薬に非定型抗精神病薬を追加投与する増強療法の効果を検討したものが多い。報告されているもののなかでは,治療抵抗性強迫性障害に対する非定型抗精神病薬による増強療法の有効性のエビデンスが比較的強いが,反応率は30%程度に止まる。以上のように,非定型抗精神病薬は幅広い適応症を有するという印象を与えるが,まだ十分なエビデンスが蓄積されているわけではなく,日常臨床における適用外使用にはなお慎重さが求められる。
Key words :atypical antipsychotic drugs, off―label use, mood disorder, anxiety disorder, personality disorder

●第一世代の抗うつ薬・抗精神病薬の役割
伊賀淳一  沼田周助  大森哲郎
 第一世代の抗うつ薬・抗精神病薬の役割について,第2あるいは第3選択薬としての意義に焦点を絞って考察した。第二世代抗うつ薬に反応がない場合,第一世代抗うつ薬に切り替える手段は有効ではあるが,別の第二世代抗うつ薬に切り替える手段に優越するとはいえそうもない。いくつかの第二世代抗うつ薬に治療抵抗性の場合は,lithiumなどを使用する増強療法とともに,個々の薬理作用を吟味した上での第一世代抗うつ薬も選択肢となる。抗精神病薬については,第二世代抗精神病薬が効果不十分の際に,別の第二世代抗精神病薬への切り替えが有力な選択肢となることが示唆されている。第一世代抗精神病薬もアウトカムのとり方によっては第二世代抗精神病薬と同等または優越する有効性を持つことが示唆されており,いくつかの第二世代抗精神病薬が無効な場合は,適量の第一世代抗精神病薬に切り替えることも選択肢となる。
Key words :antidepressants, antipsychotics, first generation, second generation, switching

■原著論文
●急性期統合失調症におけるolanzapine口腔内崩壊錠またはrisperidone内用液単剤による入院治療経過の特徴
渡部和成
 本研究は,10人の急性期統合失調症の入院治療でolanzapine口腔内崩壊錠(OlzODT)またはrisperidone内用液(RisOS)の単剤治療を行い,その入院治療経過の特徴を抽出することを目的とした。BPRSとクライエント・パス(患者自身による治療評価)の2つを治療経過の評価に用いた。全例で他の向精神薬の併用は必要としたものの,OlzODTまたはRisOSによる単剤治療を入院中継続できた。退院時では,全例で抗パーキンソン薬の併用はなく4人で併用向精神薬はなかった。すなわち,この単剤入院薬物療法は,処方の単純化を可能にする治療法の1つであろうと考えられる。薬物治療効果については,10人全体でもOlzODT治療群(6人)とRisOS治療群(4人)の各々でも同様であり,精神症状はパスの初期から著明に改善しその後緩やかに改善していく経過が見られた。しかし初期での症状改善はOlzODT治療群でより著明であった(p=0.024)。幻覚・妄想症状も両群でパスの初期で大きく改善していたが,OlzODT治療群でより明らかであった(p=0.031)。これらの結果は,抗精神病薬治療効果のearly―onset hypothesisを支持するものであった。しかし,本研究が無作為化試験ではないこと,例数が少ないこと,パスでの評価者間誤差などの影響を排除できないことから,本研究の解釈には限界があると考えられる。OlzODTとRisOSの使用薬用量についても考察した。
Key words :monopharmacy, olanzapine orally disintegrating tablets, risperidone oral solution, process of acute treatment, schizophrenia

●Risperidone内用液分包品治療によるアドヒアランス向上と再発予防効果の検討
住吉秋次
 Risperidone内用液分包品の水なしで飲める利便性等がアドヒアランスの向上に繋がる可能性を考え,DAI―10と独自に考案した調査票を用いて,薬剤選択等に関する認識調査を行ない検討した。切替え例ではrisperidone錠剤からの切替えも含めて,アドヒアランスが高まり処方通りに服用する率も高まった。Risperidone内用液は口腔内で吸収されるため即効性があるとの報告が多いが,少量の液剤のみでは唾液分泌は少なく,口腔内のpH値はそれほど上昇せず吸収は困難である。錠剤との効果発現の違いは,多分に飲みやすさ飲ませ易さからくる心理的要因が大きいと思われる。アドヒアランスが向上し等量の薬剤でも服用率が高まることが症状の更なる改善に,また処方量の減薬にも繋がると推測され,risperidone内用液分包品は統合失調症の維持治療に適した剤型の1つとして推奨できる。
Key words :risperidone oral solution, adherence, schizophrenia, interview

■症例報告
●Sertralineにより3日間で著効を認めた未成年のうつ病患者の報告
大塚明彦
 最近,いじめによる未成年の自殺が社会問題化しているが,これには少なからずうつ病が関与していると考える。今日のうつ病診断法は成人を主としており,言語表現や感情表現が未発達な未成年への活用は困難であるが,日内変動と睡眠障害といったサーカディアンリズムの異常を中心にした「脳ナビ」は,成人だけでなく未成年にも有効な診断ツールである。この脳ナビを用いてうつ病と診断され,三環系抗うつ薬で奏効しなかった未成年の患者に,寝起きの改善を主目的に定め,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるsertralineに変更したところ3日間で著効を認めた。これらのことから脳ナビを用いた診断と効果発現の速いsertralineの投与は未成年のうつ病に有用な可能性が示唆された。
Key words :sertraline, selective serotonin reuptake inhibitor, circadian rhythm, brain navigation, diagnosis of depression

■総説
●第2世代抗精神病薬の神経保護作用を生かした新しい統合失調症の治療戦略について
菊山裕貴  宮本聖也  吉田祥  花岡忠人  岡村武彦  渡辺正仁  米田博
 統合失調症の脳画像研究により,進行性の脳灰白質の体積減少が報告されており,その原因として興奮毒性,アポトーシス調節因子の変化や神経栄養因子の低下が関与していることが考えられている。Olanzapineをはじめとする第2世代抗精神病薬は,アポトーシス抑制作用,神経栄養因子の発現増加作用,神経幹細胞の分裂増殖能亢進作用などの神経保護作用を持つため,統合失調症の脳構造異常の進展防止,さらには可塑的変化を調整する可能性がある。こうした抗精神病薬の神経保護作用は,脳構造異常の是正に関与する可能性があり,最終的には認知機能障害の改善,再発率の低下が期待できる。第2世代抗精神病薬の神経保護作用を生かした治療戦略は,統合失調症の急性期における陽性,陰性症状の改善効果だけではなく,慢性期における病態の進行を遅らせ,長期予後の向上にも寄与するものと思われる。
Key words :schizophrenia, apoptosis, immune system, neuroprotective effect, second―generation antipsychotics

●抗精神病薬の剤形とアドヒアランス――新たな口腔内崩壊錠の導入――
吉尾 隆
 統合失調症治療の基本は抗精神病薬を中心とする薬物治療であり,長期にわたるものである。その目標は,急性期には行動管理や興奮,幻覚妄想などの精神症状を改善することにあり,慢性期には陰性症状や認知機能の改善および再発を防止することにより社会復帰に繋げることにある。これらの目標を達成するためには,患者がその治療を理解し,治療を受けることを自らの意志で決定し,治療参加して服薬を遵守すること(アドヒアランス)が不可欠である。ところが,最近の調査では,約半数の患者が服薬していないという報告が見られる。アドヒアランスには様々な因子が影響するが,抗精神病薬の剤形もアドヒアランスに影響する重要な因子の1つである。従来は主に錠剤が用いられていたが,近年,内用液分包や口腔内崩壊錠など,服薬の利便性などを考慮した剤形が導入されつつあり,これらはアドヒアランスの向上に寄与するものと期待されている。第二世代抗精神病薬のさきがけとして登場したrisperidoneにはすでに内用液分包が導入されており,アドヒアランスを向上させることが示されているが,新たに口腔内崩壊錠が導入される予定である。Olanzapineの口腔内崩壊錠とは異なる製剤的特徴を有するrisperidone口腔内崩壊錠の導入は統合失調症患者の薬物治療における選択肢を増やし,アドヒアランスのさらなる向上をもたらすものと期待される。
Key words :antipsychotics, adherence, orally disintegrating tablet, risperidone, olanzapine

●塩酸パロキセチン水和物の有効性・安全性の総括――市販後調査より――
上島国利  中村純  坪井康次  樋口輝彦
 Paroxetineの市販後調査を総括し,これまでに得られた有効性,安全性に関する知見をまとめた。今回のレビューの対象となったのは,市販後臨床試験および市販後の使用実態下における調査の合計4,363例であった。Paroxetineの副作用発現率は初回投与量,最大投与量,年齢,併用薬の有無にかかわらずほぼ一定であった。また,paroxetineのうつ状態・うつ病に対する有効率は年齢,病相回数,不安障害の有無などの患者背景による大きな違いを認めなかった。12週間投与により約70%の症例が寛解に至り,これらの患者のQOLの改善も証明された。Paroxetineは本邦において長期投与,ベンゾジアゼピン系抗不安薬との併用,QOLなど,多角的に有効性および安全性が検討されている。
Key words :paroxetine, post marketing surveillance, post marketing clinical trial

■紹介
●Agitation―Calmness Evaluation Scale(ACES©)精神運動興奮と鎮静の評価尺度
小野久江
 精神運動興奮を呈する患者においては急速鎮静が必要とされることがある。かつては,急速鎮静の治療ゴールは睡眠を伴う鎮静だと考えられていたが,近年では不必要な睡眠を伴う鎮静は逆に好ましくない事象とみなされており,急速鎮静の治療ゴールは睡眠を伴わない鎮静であると考えられている。そして,急速鎮静を目標とした薬物の有効性・安全性を臨床研究で評価するには,精神運度興奮から睡眠を伴う過度の鎮静までを連続的に評価できる指標が必要となる。このため,1998年にイーライリリー社は,Agitated―Calmness Evaluation Scale(ACES©)を開発した。ACES©はすでに多くの海外臨床試験で使用され,その信頼性は検討されている。今後,本邦においてもその使用が期待されるため,ACES©日本語版をここに公表することとした。
Key words :ACES©, calming, sedation, rapid tranquilization, olanzapine




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臨床精神薬理 2007年5月
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■展望
●医療観察法における治療環境の進歩と問題点
村上 優
 医療観察法による医療は,現在指定入院施設10ヵ所(病床数279床)をはじめ,鑑定入院施設,指定通院施設など新しい精神医療を展開している。対象者の85%は統合失調症圏で,人格障害や物質使用障害及び精神遅滞や発達障害などの重複障害を有するものが多くみられる。入院者の対象行為は殺人が40%と他害行為の深刻さを表している。入院医療の特徴は疾病と対象行為の関係性(内省・洞察),安全な社会復帰の促進,多職種チームによる多様な治療,アメニティとセキュリティの両立した環境,個別性を重視し急性期・回復期・社会復帰期について目標設定,処遇の決定プロセスへの対象者の参加などを治療システムに組み込んでいる。通院処遇となった社会復帰対象者の支援体制が重要であるが住居や多職種チームの確保,危機介入の方法論や適切な配置,財政的な体制などは今後の課題である。また社会復帰を促進するには,リスクアセスメント・マネージメントの方法論を検討すべきである。
Key words :forensic psychiatry, treatment program, multi―disciplinary team, cognitive behavior therapy, insight

■特集 医療観察法と薬物治療
●医療観察法指定入院病棟における薬物療法
黒木まどか  須藤 徹  中川伸明
 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「医療観察法」とする)」では,社会復帰を目指して治療が行われる。その薬物療法は,原則的には一般の精神医療と同一である。しかし,他害行為の最大のリスク要因は過去の他害歴であるとされ,医療観察法の性質上,他害行為の防止に治療の重点が置かれるのは当然のことである。一方で,対象者の人権を守るために,「同様の行為が病状の悪化によるものである」という評価は厳密に行わねばならない。このため,症状悪化による他害行為に至る可能性のリスク評価と適切な介入指針の策定が必須とされる。一般医療に比し,他害行為のリスクからみた再発予防や再発時の適切な対処技能の獲得に重点を置くことが要請される。このため,いくつかの特徴的な薬物療法実施上の戦略がある。本稿では,肥前精神医療センターで実践されている薬物療法の例を示し,これによる他害リスク軽減の試みを論じたい。
Key words :forensic psychiatry, pharmacotherapy, rehabilitation, multi―disciplinary team, risk assessment and management

●わが国の司法精神医療における治療抵抗性統合失調症――Clozapineに期待される役割――
川上宏人
 治療抵抗性統合失調症患者は常にある一定の割合で存在している。適切な薬物治療を行っても再燃や急性増悪を繰り返し,時には問題行動を起こすこともあるため,長期の入院を余儀なくされることも少なくない。指定入院医療機関においては,収容される患者の特殊性から,通常の入院施設よりも高い割合で治療抵抗性患者の問題に直面する可能性がある。治療抵抗性患者の入院が長期化することで,指定入院医療機関の運営に支障をきたすようなことになれば深刻な問題となりかねない。Clozapineは海外において治療抵抗性患者に対する切り札的位置づけを確立している薬物であり,それ以外にも攻撃性・衝動性を改善する効果,再発率が低い点,自殺を減らす効果などが知られている。その一方で,顆粒球減少,無顆粒球症や心筋炎,心筋症といった重篤な副作用や,急激な中断による精神症状の著しい悪化のおそれがあることなど,使用する上での難しさも知られている。その使用においては事前に患者の同意が必要であり,使用中には定期的な血液検査によるモニタリングを行い,副作用の発現に備えて身体症状への対応可能な施設との連携なども必要となる。現在わが国での導入に向けて臨床治験中であるが,clozapineの使用が可能となった場合には司法精神医療の場面においてもその効果を発揮することが期待される。実際,海外では触法精神病患者の予後を改善させる効果についての報告も散見されており,今後わが国の医療観察法に基づく治療を行う施設も,その使用を見据えた現実的な検討がなされるべきであり,必要な設備やシステムなどの整備や,使用上必要な知識の研修がなされることが望まれる。
Key words :clozapine, forensic psychiatry, agranulocytosis, treatment―resisitant schizophrenia

●物質使用障害を併発した触法精神病例の薬物治療・心理社会治療
松本俊彦  今村扶美  吉澤雅弘  平林直次
 心神喪失者等医療観察法は物質使用障害の治療を想定していない制度であったが,法律が施行となって1年以上を経過した現在,指定入院医療機関に入院する対象者のなかには,慢性精神病に物質使用障害が併発している症例は決して少なくなく,物質使用障害に対する治療プログラムが必要とされている状況にある。本稿では,こうした物質使用障害を併発する触法慢性精神病例に対する薬物治療,ならびに心理社会治療のあり方を概説したうえで,心神喪失者等医療観察法の枠組みにおいて物質使用障害の治療を行うことの意義と問題点を指摘した。最後に,慢性精神病を併発する場合には,物質使用障害と慢性精神病の双方に対して,同時的かつ包括的に医療を提供する必要があり,物質使用障害に対しては,心神喪失者等医療観察法による医療と一般精神医療のいずれでも継続的な治療がなされるべきであることを主張した。
Key words :substance use disorder, chronic psychosis, dual diagnosis, forensic psychiatry, Medical Treatment and Supervision Act

●重大な犯罪を犯した統合失調症患者とデポ剤治療
藤井康男
 一般の統合失調症患者における薬物コンプライアンスやデポ剤などの治療戦略が司法的問題をおこした統合失調症患者にも適応可能と考えて,従来からの考え方を概説し,最近の変化も含めてまとめた。そして,欧米で行われている強制通院制度とデポ剤との関係を記述し,最後に我が国の医療観察法の中でのデポ剤治療について整理した。医療観察法の中での抗精神病薬治療については,治療ガイドラインなどでもっと具体的にとりあげるべきであり,特にデポ剤については,医師だけでなく,治療チーム全体の理解が求められるので,今後は医療観察法の研修にも取り入れることが望ましい。
Key words :forensic patient with schizophrenia, depot neuroleptics, long―acting injectable antipsychotics, compliance

●指定通院医療機関の課題と薬物療法――民間病院の立場から――
松原三郎
 心神喪失者等医療観察法では,入院によらない医療について,指定通院医療機関が受け持つこととなっている。また,保護観察所による精神保健観察も行われ,医療面と生活支援面とがケア会議を基盤として総合的に提供される。しかし,通院処遇は我が国においては,初めての経験であり,戸惑いは隠せない。それは,通院処遇における各種治療法が確立していない,通院処遇にかかわる人員が圧倒的に不足している,居住施設が不十分である等,結果としてケア会議で策定される処遇の実施計画そのものが不十分なものに終わっている現状がある。精神障害者を地域で支えることの重要さは誰しもが認識していることであるが,わが国の精神医療では,この点が脆弱であり,このことが医療観察法の施行によってますます浮き彫りになったと言える。この問題について比較的総合的な力をもつ民間精神科病院が積極的に協力をしているが,十分に応えることができる状況ではない。
Key words :forensic psychiatry, community treatment order, designated hospitals for outpatient care

●医療観察法による医療における対象者の人権擁護
五十嵐禎人
 医療観察法による医療は,従来の精神保健福祉法による強制入院と比較して,より法的拘束力の強い性格をもつ医療であり,医療観察法においては,一般の精神科医療以上に,対象者の人権擁護のための配慮が必要と考えられる。本稿では,医療観察法の入院による医療について,医療観察法の法文や入院処遇ガイドラインに定められている人権擁護に関するシステムについて解説した。医療観察法の入院による医療は,行動の制限や処遇基準,処遇改善請求に関しては,従来の精神保健福祉法による入院と同様の人権擁護システムを備えている。また,入退院の決定に関する裁判所の関与や対象者の同意に基づく医療を原則とし,同意が得られない場合には外部の精神科医も参加する倫理会議による評価を行うことなど,従来の精神保健福祉法による入院より手厚い人権擁護のためのシステムを備えているといえる。
Key words :medical treatment and supervision act, human rights, forensic mental health services

■原著論文
●横浜市立大学附属病院神経科における統合失調症外来患者の処方調査――抗精神病薬を中心に――
大塚達以  都甲 崇  池田英二  中村慎一  平安良雄
 第二世代抗精神病薬はその優れた効果と副作用の少なさから統合失調症治療において広く使用され,特に第一世代薬から第二世代薬への切り替えと処方の単剤化が推奨されるようになった。しかしながら,わが国では多剤併用・大量療法が広く行われており,薬剤の選択肢が広がった分さらに多剤併用・大量療法が進んでいるとの指摘もある。今回われわれは,横浜市立大学附属病院神経科外来通院中の統合失調症患者の処方調査を行い,現時点での処方実態を検証した。その結果,単剤が全体の49%を占め,chlorpromazine換算用量では500mg未満が58%であった。また第二世代薬の処方率は72%であり,統合失調症の治療において第二世代薬が中心となっていることが窺えた。その一方で,第二世代薬を含む「多剤併用・大量療法」が行われている症例も少なからずみられ,特に“男性”と“入院回数の多い”症例でその割合が高かった。
Key words :schizophrenia, outpatient, high―dose antipsychotic polypharmacy

●Risperidone oral solutionの睡眠障害に対する即時効果――未治療の統合失調症者を対象としたPSGによる検討――
小鳥居 望
 近年,risperidone内用液(以下,Ris―OS)においては治療導入や不穏時での有用性とともに睡眠改善作用も注目されているが,実際にRis―OSが睡眠動態に与える影響についてはいまだ詳細な検討はされていない。そこで治療歴のない統合失調症の初発患者9名の終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施し,急性期の睡眠障害の特徴をあらためて検討した上で,Ris―OSの投与前後に生じるPSG上の睡眠動態の変化を観察し,視覚的アナログスケールによる自覚評価と合わせて,その即効性を検討した。その結果,Ris―OS就寝前投与は単回使用でも睡眠の持続性の改善と睡眠段階2の著明な増加をもたらし,「中途覚醒」と「熟眠困難」の2項目で有意に自覚評価を改善させた。これらのRis―OSの睡眠障害への効果は一部ベンゾジゼピン系薬物がもたらす影響に類似しており,統合失調症の不眠治療に様々な形で応用できる可能性があることを指摘した。
Key words :acute schizophrenia, sleep, polysomnography, risperidone oral solution, single dose

●精神科医による後発医薬品の認識・評価および使用状況――一般内科医を対照として――
本田義輝  齋藤秀之
 精神科医による後発医薬品(以下,後発品)の使用状況並びに後発品に対する認識・評価を,一般内科医を対照として,郵送調査法にて検討した。精神科医は,内科医に比べて後発品に対する許容度が高く,品質や効果,副作用等の点で先発医薬品との同等性を認める傾向が強いことが確認された。しかしながら,同等性のレベルや同等性判定の許容範囲等に関する情報は正確には理解されておらず,また,品質や副作用等の違いを経験した割合は内科医とほぼ同程度であり,さらには,後発品を処方する最大の理由として勤務施設の方針に従うことが挙げられたことなどから総合的に判断すると,内科医に比べ精神科医の方が後発品を受け入れやすい要因としては,後発品自体に対する評価の高さよりは,経営方針や診療報酬等の影響が大きいものと推察された。統合失調症やうつ病・うつ状態に対する治療薬として中核となりつつある非定型抗精神病薬や選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)については,現在のところ後発品は上市されていないが,これらの薬剤に対する処方見込みは他剤に比べ高いことから,安全かつ適正な薬物療法の遂行のためには,今後これらの薬剤の後発品が上市された際には,価格差を優先させた経営面からの短絡的な切り替えを行うことなく,品質や情報等に対する十分な事前検討と導入後の慎重な検証姿勢が不可欠と思われた。
Key words :generic drug, brand―name drug, psychoactive drugs, psychiatrist, bioequivalence

■短報
●パニック障害のTemperament and Character Inventory(TCI)による人格特性と治療および症状による影響
新田真理  服部美穂  成田智拓  梅田和憲  岩田仲生
 パニック障害では,疾患依存的に損害回避が高いとされるが,損害回避は不安やうつ状態にも依存するとされている。そこで本研究は,パニック障害患者のparoxetine治療前後におけるTemperament and Character Inventory(TCI)で測定された人格特性の変化について,パニック症状および抑うつ症状の変化を加味して検討した。対象は精神科外来通院患者でDSM―IV分類によりパニック障害と診断された32名である。Paroxetine治療前後に,パニック症状の重症度評価としてPanic Disorder Severity Scale日本語版(PDSS―J)を用い,人格特性の評価は日本語版TCI(125項目)を用いて評価した。Paroxetine治療にてパニック症状とうつ状態は改善した。健常者との比較で,パニック障害は治療評価期間を通して高い損害回避が認められた。さらにパニック障害患者の治療前後の比較では,低い自己志向が治療に伴い健常者に近づく傾向が認められた。これらのことより,TCIで測定されたパニック障害の人格特性において自己志向は症状依存性があるが,損害回避は疾患依存的に高値をとり,短期治療ではほとんど改善しない可能性があることが示唆された。
Key words :temperament and character, panic disorder, paroxetine, harm avoidance, personality

■総説
●セロトニン受容体およびセロトニントランスポーター遺伝子多型が抗うつ薬の臨床効果に与える影響
加藤正樹  奥川 学  分野正貴  嶽北佳輝  木下利彦
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を主とする抗うつ薬の治療反応性と有害事象発現に関し,各種セロトニン(5―HT)受容体およびセロトニントランスポーター(5―HTT)の遺伝子多型が及ぼす影響について概説した。5―HT受容体については種々の遺伝子多型が治療反応性と有意な関連を有するとの報告がある一方,関連を認めない報告も認められ,一定の知見は得られていない。また5―HTTの遺伝子多型である5―HTTLPRに関し,欧米ではlアレル保持による反応性増大を示唆する報告が多いが,アジアでは結果が統一しておらず,状況は混沌としている。しかし我々が最近実施したmeta―analysisでは,こうした試験結果に影響を与えるのは人種差よりもむしろ評価方法の違いであることが示唆された。うつ病患者における個別化適正治療の実現化へ向け,遺伝子多型に関するさらなる知見の蓄積が望まれる。
Key words :SSRI, antidepressant response, serotonin (5―HT) receptor, serotonin transporter (5―HTT), polymorphism

■資料
●現在の日本における最終段階を含めた,統合失調症治療のアルゴリズム作成について
菊山裕貴  岡村武彦  小林伸一  北山幸雄  森本一成  太田宗寛  米田 博
 治療抵抗性であるためにどのような薬物治療を行うべきかが不明確となり,2剤あるいは多剤併用となったまま精神科病院に長期入院となっている患者群が存在する。この問題を解決するために,急性期治療から治療抵抗性の場合の最終段階の薬物治療までを含めたアルゴリズムを作成することを考えた。最終段階の薬物治療として,すぐに症状を改善できなくても,長期的な観点からどのような薬物療法で維持しておくのがよいかについて考えた結果,長期的に維持,継続することによりできる限り病気の進行を防止し,できる限り病状を改善する可能性がある,高い神経保護作用を持つ薬剤olanzapineを選択し,維持継続することとした。作成したアルゴリズムを使用した結果,慢性期病棟での単剤化率が向上し,治療抵抗性の統合失調症患者が存在する慢性期病棟であっても治療の最終段階を明確化することにより単剤化率は向上できることが示された。
Key words :schizophrenia, algorithm, neuroprotective effect, olanzapine



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臨床精神薬理 2007年4月
批判的にお読みください。

■展望
●最近の欧米における新抗てんかん薬の動向と日本における現状
田中正樹  井上有史
 日本では,zonisamaideが1989年に,clobazamが2000年に,gabapentinが2006年に承認されて販売されている。海外では,このほかにもvigabatrin,oxcarbazepin,lamotrigine,felbamate,topiramate,tiagabin,levetiracetam,pregabalinなどがすでに臨床で使われている。Topiramate,lamotrigine,levetiracetamについては日本でも治験および申請準備が進んでいる。本稿では,欧米ではすでに使われている抗てんかん薬の中で,日本で治験および申請準備が進められている抗てんかん薬,topiramate,lamotrigine,levetiracetam,日本での治験は進んでいない抗てんかん薬,oxcarbazepin,felbamate,tiagabine,pregabalin,日本での治験が中止になった薬vigabatrinについて説明した。最後に今後治験が行われる可能性のある化合物について紹介した。
Key words :new antiepileptic dugs

■特集 抗てんかん薬による治療―新たな動向と展望
●薬理作用から見た抗てんかん薬の最近の動向
笹 征史
 てんかん患者のなお20〜30%が薬物療法に抵抗を示す難治てんかんとされており,これらに有効な抗てんかん薬(抗発作薬)が待たれている。さらにてんかん原性を抑制する薬物あるいはてんかん原性を治癒消失させる“真の”抗てんかん薬が必要とされている。近年,多くの抗発作薬が開発されつつある。これらは,主としてNa+チャネル抑制薬物(felbamate,lamotrigine,oxcarbamazepine,losigamone,ramacemide,safinamideなど),K+チャネル活性化薬(losigamone,retigabineなど),K+チャネル部分抑制薬(ramacemide),T型Ca2+チャネル抑制薬(felbamate),L/PQ型Ca2+チャネル抑制薬(gabapentin,lamotrigine,pregabalinなど),AMPA/KA受容体拮抗薬(talampanel,topiramateなど),GABAA受容体増強薬(losigamone,progabide,retigabine,topiramateなど)がある。またhチャネル抑制薬も抗てんかん薬となる可能性がある。一方,levetiracetamはこれらの薬物の作用プロフィールと全く異なり,各種チャネルや受容体には作用せずに抗発作作用を示し,さらにてんかん原性を抑制する可能性も示されている。今後,抗発作薬とともにてんかん原性抑制薬の開発が期待されるところである。
Key words :antiepileptic drugs, anti―seizure drugs, antiepileptogenic drugs, voltage―dependent ion channels, ligand―related ion channels

●小児期てんかんに対する新抗てんかん薬
下野九理子  永井利三郎
 近年,各種抗てんかん薬が開発され,てんかん治療の発展に貢献してきた。てんかんは小児期に発症するものも多く,難治に経過すれば発達障害,認知障害などの重篤な合併症を来すため,小児期の発症早期に発作のコントロールすることは非常に重要なことである。小児に適応のある新世代の抗てんかん薬としては1989年zonisamide,2000年clobazam,適応のないものとして1999年piracetam,2005年gabapentinが発売となった。また海外においてはlamotrigine,topiramate,levetiracetam,なども小児期の難治てんかんへの有効な治療法として普及している。またけいれん重積時の治療法として近年わが国ではmidazolamの使用が増えている。国内ですでに治験終了や,治験中の薬剤もあり,今後わが国においててんかん治療の選択肢となりうる新しい抗てんかん薬の特徴をまとめる。
Key words :child, epilepsy, antiepileptic drug, cognition

●成人期てんかんに対する新抗てんかん薬
兼本浩祐  大島智弘  田所ゆかり  清水寿子
 2007年から2008年にかけて長年の極端なdrug lagに苦しんできた抗てんかん薬の本邦における承認が相次ぐ見通しがあり,既に承認されたgabapentinを端緒として,topiramate,lamotrigineが続く予定である。さらにdrug lagのほとんどない新薬も承認の可能性が期待されている。本邦では承認されていない薬剤も含め,第二世代の抗てんかん薬は,抗グルタミン性(興奮抑制)とGABAA作動性(抑制促進)を軸として整理しておくと覚えやすい。本稿では,てんかんを抑制優位のてんかんと興奮優位のてんかんに整理した上で,これと第二世代抗てんかん薬の適応とを対比し,さらに副作用を3つの類型に分けてそれぞれに対して新規抗てんかん薬を整理してみた。本稿はあくまでも具体的使用に先行するラフスケッチである。
Key words :antiepileptic drugs, adult patients, anti―glutamate, GABAergic, new drugs

●老人期てんかんの現状と抗てんかん薬治療
日吉俊雄
 当院を受診した60歳以上のてんかん190例を後方視的に検討すると,症候性部分てんかん(SPE,145例)と特発性全般てんかん(IGE,29例)の2群がそのほぼすべてを占めていた。SPEは2歳から81歳までのあらゆる年齢で始まり,20歳未満の早期発病群が発作予後と社会的予後の両方で最も困難な経過をたどっていた。50歳以上の後期発病群ではてんかんの家族歴がなく,半数が推定病因としての脳血管障害や頭部外傷の既往を有していた。IGEは29例中25例が20歳未満の早期発病で,てんかんの家族歴を31%に認めた。19例では50歳以降も発作があり,10例では50歳前後で発作が増悪していた。このように,高齢になって発病したてんかんのほとんどがSPEで,予後は比較的良好であった。一般にIGEの発作予後は良いとされているが,中には高齢になって発作が増加する例があるので注意を要する。最後に,薬物動態の変化を背景にした高齢者の薬物療法の注意点を概説した。
Key words :old age, medicosocial prognosis, seizure propensity, family history, pharmacokinetics

●てんかんに伴う精神症状とその治療
千葉 茂  石本隆広  稲葉央子  田村義之  石丸雄二  高崎英気  阪本一剛  山口一豪
 わが国のてんかん患者における狭義の精神障害(ICD―10による)の出現率は42%と報告されており,てんかんに伴う精神症状は決してまれなものではない。てんかん患者では,たとえてんかん発作が十分に抑制されたとしても,抗てんかん薬(AED)の副作用や,さまざまな心理社会的問題(AED服薬継続の負担,服薬中断による発作発現の不安,周囲の人々の偏見,結婚・就職・日常生活に関する悩みなど)を抱えていることも少なくない。精神症状の発現要因として,てんかんに関連する脳の器質的障害・機能的障害,AEDの副作用,心理社会的要因,人格障害などが挙げられる。本稿では,てんかんに伴う精神症状を,発作の直前にみられるもの,発作としての精神症状,発作の直後にみられるもの,および,発作間欠時に分け,それぞれの臨床的特徴とその治療について概説する。
Key words :epilepsy, psychiatric disorders, antiepileptic drugs, antipsychotic drugs, temporal lobe epilepsy

●自己免疫反応から見たてんかん予防・治療の可能性
高橋幸利  西村成子  角替央野  大谷英之  四家達彦  二階堂弘輝  小田 望  江川 潔  池田浩子
 感染症に引き続いて発病するてんかんの一部などに,自己免疫がてんかん原性獲得に関係しているものがあることが明らかになってきた。Rasmussen症候群では細胞障害性T細胞を主体に,自己抗体・サイトカインの関与が考えられており,機能的半球切除が不可能な段階の症例では種々の免疫治療が行われている。血漿交換療法は主としててんかん重積時の適応があり,ガンマグロブリン療法(IVIG)は大きな副作用はなく比較的安全であるが,初回投与後明らかな有効例に絞って継続する。ステロイドパルス治療は初期に有効で,慢性期には重積時に適応となる。Tacrolimusはてんかん発作には無効であるが神経機能の退行を防ぐ効果があるとされている。急性脳炎でも自己免疫の関与が明らかになりつつあり,急性期治療へそれらの知見を反映させることにより,後遺症としてのてんかんを予防・軽減できる可能性がある。
Key words :Rasmussen's syndrome, Cytotoxic T cells, Autoantibodies, Glutamate receptor, Acute encephalitis

●てんかんの遺伝子研究から見えてくる個別化治療の可能性
兼子 直  藤井 学  吉田秀一
 てんかんの責任遺伝子解析によりその分子病態が明らかとなりつつあり,一方で治療薬の作用機序に関する情報が蓄積されつつある。かかる研究の進展により,患者個別の分子病態に対応する薬剤の選択が可能となり,抗てんかん薬の代謝,神経細胞への移行に関わる酵素やトランスポーターの遺伝子多型による関与の程度が明らかとなると,遺伝子異常・多型に基づいた個別化治療の開発が可能となる。本稿ではこれまでの研究成果を概観し,てんかんの個別化治療開発への可能性と今後の課題について展望する。
Key words :epilepsy gene, CYP, transporter, pharmacokinetics, pharmacodynamics, personalized medicine

■特集 新規抗てんかん薬gabapentin
●新しい抗てんかん薬gabapentinへの期待
山内俊雄
 抗てんかん薬の単剤投与から始め,効果不十分な場合は多剤併用投与に切り換えるというてんかん治療の原則に従って治療を行っても,現在本邦において販売されている抗てんかん薬のみでは発作を十分に抑制できない患者が少なからず存在している。このような治療抵抗性の発作を少しでも減らすために,新しい抗てんかん薬の出現が長い間待望されていた。そのような折,今回,新たな抗てんかん薬としてgabapentinが承認された。Gabapentinは海外ではすでに10年以上にわたって使用されている薬剤であり,高齢者などへの臨床成績も蓄積されている。Gabapentinの登場により,本邦においても,抗てんかん薬選択の幅が広がり,多くの患者で,合理的な多剤併用治療が可能となることが期待される。本稿では,gabapentinにどのような期待が持てるかについて述べた。
Key words :antiepileptic drug, partial seizure, intractable seizure, efficacy of antiepileptic drug, gabapentin

●新規抗てんかん薬gabapentin(ガバペン(R))の薬理作用
国原峯男
 Gabapentinは動物モデルにおいて既存の抗けいれん薬とは相異なる薬効プロフィールを示した。Gabapentinは抑制神経伝達物質であるGABAの誘導体であるが,GABA受容体に結合せず,他の既存の受容体とも結合しなかった。近年,gabapentin結合蛋白は電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットと同定され,gabapentinは興奮性神経の前シナプスのカルシウム流入を抑制し,神経伝達物質の放出を部分的に抑制した。また,gabapentinはGABA神経において脳内GABA量を増加させ,GABAトランスポーターの細胞質から膜への細胞内輸送を促進し,GABA神経系を亢進させた。これらの知見から,gabapentinはグルタミン酸神経などの興奮性神経を抑制し,GABA神経系を亢進することにより,結果的に中枢神経活動を抑制して抗けいれん作用を発現するものと考えられる。
Key words :antiepileptic drugs, α2δ subunit of voltage―gated calcium channels, GABA neurons, GABA transporter, gabapentin

●Gabapentinの臨床効果
八木和一  佐瀬真一
 Gabapentinは最近発売された新規作用機序を有する抗てんかん薬である。国内の臨床試験において,既存の抗てんかん薬では十分に抑制されない部分発作に対し,併用投与時の発作抑制効果が検証され,その効果は用量に相関することが確認された。こうした結果はこれまでに報告された海外の試験結果と同様であり再現的であった。また,長期投与における有効性が示唆され,gabapentinは他の抗てんかん薬との併用により,部分発作を有するてんかん患者の治療に貢献することが期待されている。海外では,わが国の適応を超えて多くの検討がなされ,成人の部分発作に対する単剤療法,小児の部分発作に対する併用療法,成人の全般発作に対する併用療法の報告があるため,文献的な考察を加えた。
Key words :gabapentin, adjunctive therapy, antiepileptic drug, partial seizure, refractory epilepsy

●Gabapentinの安全性
大沼悌一
 抗てんかん薬は時に長期的な服用が必要となり,治療計画を立てるには有効性だけでなく安全性も十分配慮しなければならない。てんかん患者に対するgabapentin併用療法によって6割程度の症例で副作用発現が認められたが,主なものは傾眠,浮動性めまい,頭痛,複視など既存の抗てんかん薬で一般的にみられる中枢神経系のものであり,その多くは軽度であった。これらの発現頻度は増量および投与期間の延長に伴って顕著に上昇することはなかった。臨床検査値異常変動も含め,抗てんかん薬としてgabapentinは優れた忍容性を有し,長期服用に適していると考えられる。国内臨床試験において,中枢神経系の副作用のほかに体重増加,視覚障害,サイロキシン減少が認められたが,いずれも重篤な転帰をとる可能性は低いと考えられた。しかし,gabapentinの国内における治療経験はまだ少ないことから,使用にあたっては慎重に観察すべきであろう。
Key words :gabapentin, side effect, weight gain, visual disturbances, thyroid function

●Gabapentinの薬物動態
古郡規雄  鈴木昭之
 Gabapentinは経口投与後,輸送担体(システムL輸送体)を介して吸収される。本薬の薬物動態は食事の影響を受けない。Gabapentinは,単回経口投与後,投与後2〜3時間に最高血漿中濃度に到達し,消失半減期は6〜9時間であった。反復経口投与の結果,予想を越える累積は確認されず,投与開始後2日までに定常状態に到達した。血漿蛋白結合率は,3%未満で非常に低かった。本薬は,代謝を受けず,腎より排泄される。腎機能(クレアチニンクリアランス)の低下に従い,経口クリアランスが減少した。薬物相互作用に関しては,抗てんかん薬(phenytoin,carbamazepine,valproic acidおよびphenobarbital)との相互作用は確認されていない。制酸剤(マグネシウム・アルミニウム含有)の併用によりgabapentinのCmaxおよびAUC0―∞はそれぞれ17%および19%減少すると報告されている。
Key words :antiepileptic dugs, pharmacokinetics, population pharmacokinetics, gabapentin

●「応答比」とそれに基づく推測
後藤昌司  山邉太陽  丸尾和司  河合統介
 「応答比(Responce Ratio:RR)」は1つの治療を施した前後の比較,すなわち処理前と処理後の対比を目標とするデザインのもとで,処理前の観測値(前値)と処理後の観測値(後値)の対比統計量として,「統計的性質」の性能の良さから推奨された統計量である。RRは,gabapentinの臨床試験の主要評価項目として採用され,その効能を巧妙に発揮し,有意な結果を提示した。ここでは,応答比の定義と解釈,その分布の導出と統計的性質を考察した。実際に,これらの考察に沿ってgabapentinの臨床試験の成績から応答比に関して得られた結果を再検討し,応答比にまつわる二,三の知見を与え,「応答比」をエンドポイントとして用いるときの留意点を与えた。
Key words :Endpoint, Log transformation, Log―normal distribution, Power transformation, Power―normal distribution, Sliding square plot.

■原著論文
●統合失調症の不安,抑うつに対するperospironeの有効性の検討
菊山裕貴  法橋 明  植坂俊郎  孫 漢洛  瀬尾 崇  上田ゆかり  稲田貴士  横田伸吾  長尾喜一郎  岡村武彦  康  純  米田 博
 第2世代抗精神病薬であるperospironeは不安,抑うつに関与する5―HT1A受容体に対するpartial agonist作用を持つため不安,抑うつ改善効果が期待される。実際に,perospironeはhaloperidolとの二重盲検比較試験にて不安,抑うつの改善率が高いことが報告されている。今回我々はBPRSの「不安・抑うつ」クラスター4項目スコア合計が16以上のもの,あるいは4項目のスコアに6以上がある統合失調症患者に対するperospironeの効果について検討した。その結果,BPRSの「不安・抑うつ」クラスター4項目の全てがperospirone投与後4週で有意に改善していた。統合失調症患者のうち強い「不安・抑うつ」症状を持つ患者に対して「不安・抑うつ」を標的症状として治療を行う場合にはperospironeが有効である可能性が示唆されるが,今後のさらなる検討が必要である。
Key words :schizophrenia, second generation antipsychotics, perospirone, anxiety, depression



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臨床精神薬理 2007年3月
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■展望
●メタボリックシンドロームの病態と治療的介入
岡崎由希子  植木浩二郎  門脇 孝
 近年の生活習慣の変化によって,世界的に肥満が蔓延しており,それに伴ってメタボリックシンドロームという病態が爆発的に増加している。メタボリックシンドロームとは,内臓肥満に付随して,脂質代謝異常,血圧高値,高血糖などの心血管疾患の危険因子が一個人に集積した病態のことを言う。これらの危険因子は2つ以上が組み合わさることで相乗的に心血管疾患の発症リスクが高まるとされており,また各々が独立の因子ではなく肥満によって惹起される共通の基盤を持っている。一方,精神疾患においては,不安・抑うつ,緊張,怒りなどの精神的症候が,メタボリックシンドロームの発症や増悪と関連すると言われており,ことに統合失調症との関連は強いことが知られている。さらに最近,非定型抗精神病薬が体重増加や耐糖能異常,脂質代謝異常を誘発することが示唆されていることからも,ますますメタボリックシンドロームと統合失調症の関係が注目を集めるようになってきている。
Key words :metabolic syndrome, obesity, waist circumference, insulin resistance, adipokine

■特集 メタボリック・シンドロームと精神科薬物療法
●精神疾患とメタボリック・シンドローム
渡邉純蔵  鈴木雄太郎  澤村一司  須貝拓朗  福井直樹  小野 信  染矢俊幸
 精神科領域においては,以前より統合失調症患者やうつ病患者で心血管疾患による死亡率が一般人口に比べ高かった。また,少数ではあるが統合失調症患者でメタボリック・シンドロームの有病率の高さを示す報告がある。向精神薬がメタボリック・シンドロームの発症に与える影響が多数報告されているが,精神疾患そのものもメタボリック・シンドロームの発症に影響を与えていると考えられる。過去の研究から,精神疾患におけるHPA axisの調節障害,うつ病患者における交感神経系の活動性の増加,精神疾患とメタボリック・シンドロームの構成因子との間の遺伝学的共通性,統合失調症やうつ病における身体の活動性低下などが,単独あるいは複合してメタボリック・シンドロームを発症させることが示唆される。精神疾患患者の診療にあたっては,メタボリック・シンドロームの予防,発見,早期介入へのより一層の配慮が必要である。
Key words :metabolic syndrome, schizophrenia, depressive disorder

●精神科薬物療法と糖代謝異常
河盛隆造
 メタボリックシンドロームと診断された例や2型糖尿病の治療を開始した例では,うつ傾向や不眠を訴えることが多い。一方,統合失調症患者では一般人口に比べて糖尿病発症リスクが高い。非定型抗精神病薬は従来の抗精神病薬に比べて錐体外路症状や認知障害などの副作用を引き起こすことは少なく,精神症状を改善することから,統合失調症の第一選択薬として期待されている。ただし,いずれの薬剤も糖尿病もしくはその危険因子を有する患者への投与は禁忌もしくは慎重投与となっている。しかし糖尿病のリスクがあるからといって原疾患の治療機会を逸することがあってはならない。精神科薬物療法においては,糖代謝異常発症・増悪のチェックが必要である。
Key words :diabetes mellitus, obesity, glucose fluxes, insulin secretory ability, insulin resistance

●精神科薬物療法と脂質代謝異常――その評価と対応について――
鈴木誠司
 高力価の従来薬(haloperidolなど),非定型抗精神病薬であるziprasidone,risperidone,aripiprazoleは高脂血症の危険性と低い相関がある。低力価の従来薬(chlorpromazine,thioridazineなど)と非定型抗精神病薬であるquetiapine,olanzapine,clozapineは高脂血症の危険性と高い相関がある。高脂血症を引き起こす機序としては体重増加,食事の変化,耐糖能異常の発症などが想定されている。統合失調症患者に心血管疾患の多数の危険因子がみられる場合,高脂血症で引き起こされる臨床的な負荷を最小限にするため抗精神薬の選択に当たっては注意が必要である。統合失調症の患者はすべて脂質の基礎値を調べる必要があり,高脂血症の危険性の低い患者は年に1回,危険の高い患者は3ヵ月ごとに脂質を測定することが勧められる。継続的に高脂血症を呈している患者では脂質低下療法を始めるか,脂質を悪化させる可能性の低い薬剤に変更するべきである。
Key words :hyperlipidemia, antipsychotics, conventional, atypical, cardiovascular risk

●精神科薬物療法と高血圧
斎藤重幸  島本和明
 ストレス時や心因反応での降圧薬療法は,患者のQOLの低下を起こさない降圧薬の選択が求められる。一般にβ遮断薬はストレス時や心因反応のある際には有用である。また,利尿薬はストレスによる交感神経活性化を助長し,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,Ca拮抗薬,α遮断薬は心理ストレス時の昇圧反応を抑制する。一方,精神神経障害患者への薬物治療では,β遮断薬の中枢神経系への副作用として抑うつ状態,錯乱,悪夢,幻覚などが報告されており,β遮断薬はうつ病患者には用いるべきではない。Ca拮抗薬の中枢性作用は稀だが,時に錐体外路症状がみられる。中枢性α2受容体刺激薬では頭痛,めまいなどがあり知覚障害,抑うつ,悪夢,不眠,パーキンソン症状などが用量依存性に出現することがあり注意を要する。最近,精神神経障害治療の進歩から外来での血圧のコントロールを求めて,一般診療機関を受診する機会が増えてきている。このような精神神経疾患を有する高血圧患者においての降圧薬の的確な選択には注意を要する。
Key words :stress, hypertension, blood pressure, MARTA, antipsychotic agents

●統合失調症患者に対するメタボリック・シンドロームの心理教育
中川敦夫
 非定型抗精神病薬の登場により,抗精神病薬の副作用の主軸が従来の錐体外路症状などの不随意運動から肥満を含めたメタボリック・シンドロームのリスクへと移行してきている。しかし,薬物療法の調整だけではその効果は不十分で,食事や運動など行動変容を目的とした健康管理プログラムが大切である。今回,文献検索にて同定された8つの非定型抗精神病薬治療による体重増加への食事,運動と認知行動療法を統合した集団プログラムの効果の実証研究をレビューした結果,非定型抗精神病薬をすでに長期間にわたり使用している患者でも,またこれから新たに投与開始する患者でも,体重の減量効果や増加抑制効果が示唆された。今後,どのような患者が健康管理プログラムに向くのかなどの患者特性や,より長期的な大規模な無作為割付対照比較試験の実施が待たれる。一方,臨床においては患者の抱えている問題の評価と多職種との連携が健康管理プログラムの実践上重要である。
Key words :schizophrenia, weight management, metabolic syndrome

●抗精神病薬とメタボリックシンドローム治療薬の相互作用について
辻 美江  野田幸裕  川村由季子  鍋島俊隆  尾崎紀夫
 統合失調症患者では,メタボリックシンドロームに罹患する頻度は一般成人に比べて高いことから,統合失調症患者は必然的にメタボリックシンドロームの治療薬,中でも糖尿病治療薬や高血圧治療薬,高脂血症治療薬を服用する機会が多い。臨床現場でこのように精神疾患における単剤治療がまれな現状では,臨床上よく経験される薬物相互作用によって有害な副作用が現れる危険性が高く,注意が必要である。しかし,抗精神病薬とメタボリックシンドロームの治療薬との薬物相互作用についてはほとんど知られていない。本稿では,薬物相互作用の概念,抗精神病薬とメタボリックシンドロームの治療に使用される薬物の薬物相互作用の可能性について概説した。
Key words :antipsychotics, metabolic syndrome, drug interaction, pharmacokinetic, cytochrome P450

■原著論文
●大うつ病エピソードの抗うつ薬治療結果
長沼英俊
 精神科臨床(外来)における大うつ病エピソードの抗うつ薬治療結果を検討した。17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HAM―D)の総得点にて8点以上である143例の大うつ病エピソードを対象とした。寛解はHAM―Dの総得点にて7点以下が2ヵ月以上続いた場合とした。寛解は8週までに79例(55%),16週までに87例(61%)であった。抗うつ薬の選択回数と寛解をみると,第1選択の抗うつ薬までに73例(51%),第2選択の抗うつ薬までに84例(59%),第3選択の抗うつ薬までに87例(61%)が寛解した。寛解群の抗うつ薬用量(imipramine等価用量)の中央値は100mg/日であった。脱落は2週までに44例(31%),10週までに56例(39%)であった。脱落の内訳をみると,受診しないは31例(22%),治療契約が成立しないは10例(7%),精神科入院治療は9例(6%),自殺と転居は各3例(2%)であった。抗うつ薬は少量から開始し,寛解するまでまたは有害事象に耐えるまで増量する。
Key words :antidepressant, depression, remission, response, suicide

■症例報告
●自殺企図のあるうつ病に対してparoxetineが効果を認めた4症例
宇都宮克也
 自殺企図を主訴とする初発うつ病にparoxetineが有効であった4症例を経験したので病前性格・臨床症状を後向きに検討した。4症例とも病前性格は親和志向型,臨床症状は不安・寂しさが中心であった。比較・対照としてparoxetineが無効であった1例を提示した。うつ病者の自殺防止を目指すには,セロトニン機能を強化する抗うつ薬を選択する薬物療法が適切と考えられること,自殺企図のある初発うつ病に対してparoxetineのようなセロトニン機能を強化する抗うつ薬治療が自殺防止に有効である可能性について検討・考察した。うつ病患者が自殺する機序は,中枢セロトニン神経系の機能が減弱し,自己の不安や寂しさを適切に調整できず,遁走や自傷行為などの行動化を制御できなくなる結果が大半を占めるのではないかと思われる。
Key words :paroxetine, treatment refractory depression, suicide attempt, premorbid personality, serotonin

●Milnacipran投与中に血圧上昇を生じた2例
馬場寛子  石郷岡純  三谷万里奈  松見達俊
 Milnacipranは,三環系抗うつ薬に比べ副作用が少なく,臨床の現場で汎用されている。今回当院でmilnacipranによる血圧上昇を生じた症例を2例経験した。症例1は,35歳男性,高血圧の既往歴はなく,大うつ病性障害の治療のためmilnacipran100mg/日を投与,精神症状は改善されたがそれと同時期に血圧の上昇がみられ,投与中止することにより血圧は正常値に回復した。症例2は,69歳女性,大うつ病性障害の治療のためmilnacipran100mg/日投与された。入院時血圧が高めに動揺していたので要経過観察となっていた。精神症状は改善傾向にあったが血圧がさらに高めに動揺するようになり,amlodipine5mg/日開始となるが血圧が下降せず,milnacipranを中止しamlodipine10mg/日に増量後血圧が安定した。以上により,この2症例の血圧上昇はmilnacipran投与との関連が強く疑われた。
Key words :milnacipran, SNRI, elevation of blood pressure, noradrenaline

●Aripiprazoleを使用した統合失調症治療――実際の治療経験から――
菊山裕貴  岡村武彦  森本一成  太田宗寛  米田 博
 今回我々はaripiprazoleの適応,スイッチング技法,至適用量,効果判定期間について考えさせられた統合失調症の4症例を報告した。症例1は慢性期再燃例で褥瘡を来す程の重度の昏迷状態であったが,aripiprazoleの投与により急速に症状が改善した。症例2は慢性期外来患者で,aripiprazoleへのスイッチングの途中で前治療薬の減薬によるコリン作動性リバウンドと思われる症状が一時出現したが,4週間後には症状改善した。症例3は急性期新規入院患者で,aripiprazole12〜18mgを4週間使用しても幻聴,興奮が続いていたが,aripiprazoleを30mgまで増量したところ症状が改善された。症例4は難治と思われる慢性期長期入院患者にaripiprazoleを使用したところ,暴力行為が出現したためaripiprazoleを中止し,前治療薬へ薬剤を変更した。
Key words :aripiprazole, schizophrenia, third generation antipsychotics, switching protocol



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臨床精神薬理 2007年2月
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■展望
●痛みの精神医学
丸田俊彦
 精神医学の慢性疼痛への関心は長い歴史を持つ。本論文は,米国におけるここ40年間の慢性の(“精神科的な”)痛みの臨床の展開を振り返る形で,慢性疼痛の診断基準の変遷,そして,バイオ・サイコ・ソーシャル・モデル,認知行動療法的アプローチ,間主観性理論と慢性疼痛の関わりを考える。痛みに対する精神科薬物療法は,本特集で各執筆者が詳述するので敢えて割愛し,特集を読む際のコンテクストを提供した。
Key words :pain behaviors, pain disorder, cognitive‐behavior therapy, intersubjective approach, biopsychosocial model

■特集 痛みに対する精神科薬物療法
●痛みの発生メカニズムとその治療
高橋秀則
 組織の傷害や炎症は,侵害刺激として末梢の侵害受容器から脊髄後角へ伝導され,さらに脊髄視床路を通り視床へ達し,大脳皮質へ放射されて痛みとして感じる。これを修飾する機構として下行性抑制系や脊髄後角での疼痛抑制システムが存在し,オピオイド,セロトニン,ノルアドレナリンなどが関与している。侵害刺激の遷延や神経損傷によって,末梢あるいは中枢神経の感作が起こると病的疼痛となり,難治である。また慢性疼痛では知覚としての痛みだけでなく,それに伴う精神的苦悩や疼痛行動も問題となり,これらを解決する治療法も必要となる。疼痛治療には薬物療法,神経ブロック療法,電気刺激療法,理学療法,精神心理学的療法などがあり,個々の症例の疼痛発生メカニズムを考慮に入れて選択すべきである。また神経因性疼痛とりわけ求心路遮断性疼痛に対する治療として電気けいれん療法も最近注目されている。
Key words :pathophysiology of pain, descending inhibitory system, central sensitization, antidepressant, electroconvulsive therapy

●慢性疼痛に対する抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系薬および抗けいれん薬の臨床試験成績
中木敏夫
 慢性疼痛に対する比較対照臨床試験の結果を概観した。抗うつ薬により慢性疼痛が軽減することを多くの臨床研究が報告している。このメカニズムとして,抗うつ薬により疼痛閾値が上がったこと,うつ状態が改善されたために疼痛の訴えが軽減したという可能性が推定されている。これとは別に慢性疼痛と抑うつの直接的な関係を否定した研究もあり,抑うつと強い相関関係があるのは疼痛ではなく運動障害であるとされ,これは関節リウマチによる慢性疼痛には重要であると思われる。抗うつ薬以外では,ベンゾジアゼピン系薬は顎関節症に対する効果を調べた研究が複数あるが見解の一致を見ない。抗けいれん薬は,脊椎損傷や三叉神経痛に有効であるという結果が少数の研究ではあるが報告されている。このように,慢性疼痛の原因疾患は多様であるため,全てに共通のメカニズムもしくは結論が得られる可能性は低く,有効な治療薬も多様であることが予想される。
Key words :chronic pain, randomized controlled trials, antidepressants, benzodiazepines, anticonvulsants

●身体表現性障害(疼痛性障害)の診断と薬物療法
山田和男
 “疼痛性障害”は,1つまたはそれ以上の重篤な疼痛を特徴とする身体表現性障害の1つである。疼痛性障害の診断は,精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM―IV)によって行うことが多い。身体化障害や大うつ病性障害などの他の精神疾患との鑑別を要する。疼痛性障害は,精神科以外の科においても,慢性疼痛をはじめとした様々な診断名のもと,不適切な治療が行われている可能性がある。疼痛性障害に対しては,三環系抗うつ薬をはじめとした抗うつ薬による薬物療法が有効である。抗うつ薬を使用する際には,十分量を用いて,十分期間の経過観察を行うべきである。疼痛性障害の患者は,benzodiazepine系薬剤や非ステロイド性鎮痛薬(NSAID)の依存または濫用をきたしやすいので,これらの薬剤を治療に用いるべきではない。また,疼痛性障害を治療する際には,薬物療法と並行して,認知行動療法的アプローチを行うべきである。
Key words :antidepressant, diagnosis, somatoform disorder, pain disorder, pharmacotherapy

●うつ病と疼痛に対する薬物療法
辻 敬一郎  田島 治
 慢性疼痛とうつ病の並存は,他の精神疾患に比較して圧倒的に多いことが知られており,また,抗うつ薬を中心とする向精神薬が慢性疼痛の疼痛軽減に有効であることも周知である。一部の向精神薬は何らかの疼痛性疾患への適応症を取得しているが,疼痛治療において未承認の抗うつ薬や抗てんかん薬の鎮痛効果を支持する報告が多くなされている。抗うつ薬に関しては,serotoninとnoradrenalineの両方に作用するdual actionの抗うつ薬に強い鎮痛効果があるという見解が優勢で,三環系抗うつ薬より安全性の高いセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬への期待が高まっている。慢性疼痛に対するこれらの向精神薬治療は,主に整形外科領域や麻酔科領域で行われることが多いが,うつ病の並存率の高さからみても,精神科臨床医もその認識を高める必要があるものと思われる。
Key words :chronic pain, depression, comorbidity, antidepressants, anticonvulsants

●線維筋痛症の概念と治療アプローチ
西村勝治
 線維筋痛症(fibromyalgia)は筋骨格系における慢性の広範囲の疼痛,こわばりを主徴とする比較的頻度の高い原因不明のリウマチ性疾患である。複数の特異的部位に圧痛点を認めることが特徴で,疲労感,睡眠障害,抑うつなど多彩な症状を伴う。神経―免疫―内分泌系の異常,痛みに対する制御系の異常などが想定されている。なじみの薄い疾患であるが,近年,わが国においてもようやく認知されるようになってきた。薬物療法のエビデンスは着実に蓄積されつつある。特に抗うつ薬は本来の抗うつ効果とは独立して,痛み自体に対する効果があることが知られており,積極的に使用すべきである。非薬物療法としては運動療法が推奨されている。同時に,併存する抑うつや不安などの精神症状に対する精神医学的アプローチが求められる。
Key words :fibromyalgia, antidepressant, serotonin noradrenaline reuptake inhibitor, pregabalin

●がん性疼痛に対する疼痛治療と緩和ケア
高橋秀徳  中山理加  首藤真理子  折茂香織  片山博文  木俣有美子  村上敏史  服部政治  門田和気  下山直人
 がんの痛みは,患者の日常生活に大きな変化を引き起こす。がん性疼痛に対しては,オピオイドを中心としたWHOがん疼痛治療指針が標準的治療として存在するものの,わが国ではあまり知られていなかったため,患者は緩和ケア専門病棟を利用しない限りがんの苦痛で苦しまざるを得なかった。しかしながら,2002年に一般病棟での緩和ケアチームの活動が認可されたことや,がん性疼痛治療に用いることができるオピオイドの選択肢の幅が広がりオピオイドローテーションが可能になったことにより,全国各地でWHO方式の普及が進みオピオイドが積極的に使用されるようになった。また,これまで終末期のみが対象であった緩和ケアが,近年では抗がん治療に並行して提供されるべきものとして考えられるようになり,わが国におけるがん性疼痛治療・緩和ケアは「全人的ながん診療」の実現に向けてここ数年で大きな変貌を遂げている。
Key words :cancer pain, palliative care, opioid, WHO guideline, palliative care team

■原著論文
●Olanzapine口腔内崩壊錠の臨床経験
田澤美穂子  藤井康男  宮田量治  輿石郁生  川上宏人  岩崎弘子  三澤史斉  市江亮一  小林美穂子  澤田法英  勝見千晶
 2005年7〜9月に山梨県立北病院でolanzapine口腔内崩壊錠が投与され,本調査に対し本人の文書同意が得られた症例について導入時の実態,治療経過を調査した。対象は37例,そのうち統合失調症圏は35例(95%)であった。投与開始時GAF(Global Assessment of Functioning)は平均39.7±10.0で入院症例が27例,そのうち保護室で投与開始した症例は8例であった。先行薬なくolanzapine口腔内崩壊錠単剤で治療開始した3例のうち,2例が軽快退院に至り,残り1例は他剤へ変更となった。本剤導入前後の主剤の変遷に関しては,導入前の主剤は,既存のolanzapine錠剤使用例が16例(55%),risperidone錠剤使用が7例(24%)であり,olanzapine口腔内崩壊錠導入4週後に再度主剤を比較すると22例(76%)がolanzapine口腔内崩壊錠を継続使用していた。特に,コンプライアンス不良5例に関しては,全例にコンプライアンスの改善が見られた。また患者への「のみごこち」に関するアンケート調査では,飲みやすいと肯定的な意見が多く,自覚的薬物体験の重要性が示唆された。看護師へのアンケート調査では,与薬の確実性,安全性が支持された。以上より,olanzapine口腔内崩壊錠は活発な精神病症状や興奮状態にある患者に対し短期間で症状を消退させ,急性期,慢性期のどちらに関しても服薬コンプライアンスを改善し,看護や介護者の負担を軽減させる,という特徴があることが示唆された。
Key words :olanzapine, orally―disintegrating―tablet, compliance

●統合失調症に対するolanzapine Zydis錠の有効性と安全性――長崎Zydis研究会中間報告から――
中根秀之  福迫貴弘  畑田けい子  田川安浩  小澤寛樹
 2005年7月,olanzapineには口腔内崩壊錠という新たな剤形が追加された。今回われわれは,長崎大学精神神経科を中心に,長崎県下の総合病院,精神科病院,クリニックと連携し「統合失調症に対するolanzapine Zydis錠の有効性と安全性に関する調査」共同研究を実施した。この調査研究の目的は,olanzapine Zydis錠(以下olanzapine口腔内崩壊錠とする)の効果と安全性を検討するものである。対象は,ICD―10およびDSM―IVによって統合失調症と診断された26例であり,24週間にわたり以下の評価項目について検討した。精神症状についてはBPRS/総合評価(CGI)を用いて評価した。QOLと病識についてはEuro―QOL/病識評価(SAI―J)を用いた。治療薬・服薬についてはDAI―10/服薬アドヒアランス(ROMI)を用いた。さらに,安全性についてはバイタルサイン,血液・生化学検査,プロラクチン,血糖関連,体重,錐体外路症状について評価した。現在までの中間解析の結果から,開始前と24週後で比較すると,olanzapine口腔内崩壊錠による治療でBPRSは−14.0点の有意な改善が認められ,開始後4週からその効果が認められている。さらにQOLや病識,服薬感についても同様に有意な改善が認められた。水なしで服薬できる口腔内崩壊錠が剤形として追加されたことで,薬剤の飲み易さや飲みごこちといった薬物治療の継続に重要なアドヒアランスの向上にも寄与している可能性が示唆された。
Key words :schizophrenia, adherence, quality of life, olanzapine, psychopharmacology

●Risperidone内用液による外来維持治療に対する効果の検討
窪田幸久
 平成17年,risperidone内用液(risperidone oral solution以下risperidone―OS)の小分け剤型が上市され以前よりも使い勝手が改善したことを受け,統合失調症の初発未治療患者26例,通院患者31例に投与を試みた。Risperidone―OSによる急性期に対する治療効果を指摘した報告は多いが,外来維持療法における使用経験の報告はまだ少ない。本稿では,初発未治療例,慢性期の変更例に分け効果を検討し,特に変更例に対してはDrug Attitude Inventory―10(以下DAI―10)によるアンケート調査を施行し,患者主観的評価を検証した。初発未治療例においては85%の有効性が確認され,変更患者においては服薬コンプライアンスやアドヒアランスの改善が認められ,risperidone―OSの有効性が示唆された。
Key words :risperidone, oral solution, compliance, maintenance treatment

■症例報告
●少量のaripiprazoleが奏効した悪性症候群の1例
堤 祐一郎
 統合失調症患者の抗精神病薬による治療中に高熱,発汗,筋強剛,昏迷状態を示し,時に生命予後が著しく不良な転機をとることがあり,従来から悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome:NMSとして知られてきた。Aripiprazoleは本邦で開発された統合失調症治療薬として世界初のドパミンパーシャルアゴニストであり,2006年6月から本邦でも臨床使用が可能となった。今回,高CK値,高ミオグロビン尿症,高熱,発汗,嚥下不良,筋強剛,亜昏迷状態のNMSを併発した統合失調症患者に対して,補液を含む全身管理および低用量のaripiprazoleによりNMSの改善を認めた症例を経験したので報告する。またこれまでの本剤に関連するNMSの報告についての紹介と考察を行い,さらに今回のaripiprazoleによる治療経験から抗精神病薬による悪性症候群の病態について再考し,昨今のNMS概念と向精神薬由来の他の随伴症状群との関係をめぐる諸問題などについても述べる。
Key words :neuroleptic malignant syndrome, schizophrenia, aripiprazole, partial D2 agonist, successfully treated

■短報
●Valproic acidにperospironeを併用することによりコントロール良好となったrapid cyclerの1例
中山静一  小倉朋美
 症例は躁状態で初発の双極性障害の患者,lithium carbonate(以下lithium)にrisperidoneを併用し,寛解に至ったが,ほどなくうつ転した。抗うつ薬は使用せずにetizolamを併用し,改善した後lithium単剤で維持していた。次の躁病相でrisperidoneを併用したところ再びうつ転し,rapid cycling化した。本症例にはlithiumは病相予防効果が乏しいと考え,気分安定薬をvalproic acidに変更したところ,それのみでうつ状態は改善した。3回目の躁病相が出現しrisperidoneを投与した。Risperidone6mgに増量したところ錐体外路症状が強く現れ,発熱,血清CK上昇も認められた。悪性症候群の前駆状態と考え,補液とdantrolene内服で改善するも躁状態は持続した。抗精神病薬をrisperidoneからperospironeにswitchingを行い48mgまで増量したが悪性症候群は出現せず躁状態も改善した。その後,valproic acidと少量のperospironeの併用療法を行っており,うつ転もなく約1年間寛解が維持されている。
Key words :bipolar disease, rapid cycler, valproic acid, perospirone

■総説
●SSRIのプロファイルの違いとその使い分け
渡邉昌祐
 SSRIは世界で最初に上市されたfluvoxamine(1983年)をはじめ,現在では6種類が利用可能である。各国のうつ病の薬物療法ガイドラインでは,第一選択の抗うつ薬はSSRIであると記載しているものがほとんどである。わが国においてはこのたび,3番目のSSRIとしてsertralineが新規に発売され,fluvoxamine,paroxetineと合わせ3剤が選択可能になったため,現時点での国内外の知見を整理するとともに筆者自身の使用経験と評価について紹介し,SSRIの使い分けについて考察した。各種SSRIはセロトニンの再取り込みを阻害する作用は共通しているものの,各種受容体への親和性,抗うつ作用のプロファイル(賦活的か鎮静的か),副作用(消化器症状,activation syndrome,離脱症候群,性機能障害,前頭葉類似症候群,自殺企図),薬物相互作用のプロファイル等において差異が見られる。SSRIによる治療効果を最大化するため,これらプロファイルを考慮した薬剤選択と使い分けが望まれる。
Key words :antidepressive profile, fluvoxamine, paroxetine, sertraline, SSRI
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